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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

原子力発電、採算合わず“儲からないビジネス”に…欧米メーカーはすでに撤退、世界の潮流

文=加谷珪一/経済評論家

採算がまったく合わないという事態に

 
 当然のことながら日本は核保有国ではないが、原発に関する高い技術を持っており、使用済核燃料を自力で再処理する能力がある。核燃料を再処理できれば、兵器への転用が可能なプルトニウムを抽出できるので、国際社会は日本について核保有国になるポテンシャルを持つ国と認識している。

 核不拡散という基本方針に反する状況であるにもかかわらず、日本が核燃料の再処理を実施できるのは、日本と米国の間に強固な同盟関係が成立しているからである。つまり日本は米国から見れば特別扱いの国であり、日本の原子力技術というのは、日米安保に支えられたデリケートな存在ということになる。

 米国とは必ずしも友好的ではないトルコに対して、核兵器への転用を事実上、認める協定を結ぶことは、思わぬ政治的、軍事的リスクを招く可能性がある。現時点において大きな問題が発生していないとしても、わざわざ積極的に協定を締結するメリットは少ない。

 だが安倍政権は、トルコへの原発輸出を最優先し、こうした微妙な協定を結んでしまった。原発推進か脱原発かという議論以前の問題として、慎重な意見が出てくるのも無理はないだろう。

 これだけのリスクを背負って進めたトルコへの原発輸出だが、結局はコスト的に合わないという理由で断念する結果となった。三菱重工と同様、日立も英国への原発輸出を計画しているが、こちらも撤退するかどうかの瀬戸際に立たされている。理由はトルコと同じく採算性である。

 では、なぜ日本の原発メーカーは、ここにきて、採算が合わないという事態に直面しているのだろうか。理由は2つあると考えられる。

シーメンスやGEなどは事実上、原発からは撤退している

 
 ひとつは原発のコスト上昇である。一般的には、福島第1原発の事故が発生したことから、安全基準が高くなり、コストが増加したと理解されている。だがライフサイクル・コストまで考えた場合、原発はそもそも割高であるという話は、福島の事故以前から業界ではかなり議論されていた。

 欧州の総合メーカーである独シーメンスは2011年に原発から撤退。米ゼネラル・エレクトリック(GE)本体も原発からはほぼ手を引いている。GEは沸騰水型原発(BWR)の技術を開発した原発メーカーの雄であり、東芝や日立といった日本メーカーはGEからの技術導入で原発事業に参入した。原発の本家本元の企業が手を引いているという現実を考えると、ビジネスとして成立させるのは難しい状況になったと考えるのが自然だろう。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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