ホンハイに買収されたシャープの教訓
シャープは自力で経営再建を実現することができなかった。その結果、海外企業の傘下に入り、経営の意思決定権を失った。シャープの53%の株式をホンハイおよびその関連会社が保有するなか、シャープはホンハイの考えに従わざるを得ない。それは、わが国の財産(技術力など)が海外に流出することにほかならない。それに加え、シャープの経営に中国政府の意向がより大きな影響を及ぼす展開もあり得る。
ホンハイにとって中国政府が進める「中国製造2025」は、テクノロジー企業としての経営体制を整備するチャンスだ。2025年に中国政府は半導体の自給率を70%まで高めたい。そのために、ホンハイがシャープのほかの国内事業の一部を中国に移管する可能性も否定はできない。
こうした展開を防ぐためには、わが国企業が能動的に新しい取り組みを進めて、環境の変化に適応していかなければならない。ホンハイは、受託製造業という最終需要の影響を受けやすい立場からの脱却を目指し、シャープを傘下に収めることでIT先端企業への成長を目指している。
わが国の企業経営者は過去の成功体験を捨て、常に新しい取り組みを進めなければならない。自ら変化を起こし、成長を手にする発想が必要とされているといってもよい。それができないと、シャープのように経営再建を自力で進め、雇用・技術などを守り、増やしていくこと自体が難しくなると心得るべきだ。
足許、世界経済の先行き不透明感は高まっている。米中貿易戦争の激化懸念から、中国経済の減速懸念も強くなっている。米国と中国のITハイテク機器需要に支えられて業績を回復させてきたわが国企業にとって、経営の実力が問われる環境が迫っているといってよいだろう。新しい取り組みを進め、自力で経営管理体制の強化に取り組み、さらなる成長を目指す企業が増えることを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)