2007年に堺工場の建設が着工された。この時期、米国の住宅バブルがはじけ世界経済が変調をきたし始めていた。それを踏まえると、同社の成功体験への執着はかなり強かったと考えられる。そのあまり、自社を取り巻く経済環境の変化を冷静に見極め、変化に適応しようとする考えを重視すること自体が難しくなっていたのだろう。
IT先端企業への飛躍目指すホンハイ
リーマンショック後、売り上げの減少や、過去の過剰な設備投資が原因となり、シャープの経営は急速に悪化した。2011年度通期決算は最終損益が赤字に陥り、自己資本比率も低下した。2016年3月、同社は自力での経営再建をあきらめ、ホンハイによる買収が発表された。
ホンハイがシャープを買収した理由は、EMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器受託生産)世界最大手の地位に満足することなく、IT先端企業としての基盤を整備することにあった。具体的には、省エネ性能と高画質を兼ね備えた半導体技術である「IGZO」をはじめ、シャープの技術力を吸収し、IT先端技術の実用化に欠かせない要素の取り込みが目指された。世界を代表するテクノロジー企業としての優位性を確保し、さらに強化するという野望がホンハイによるシャープ買収の背後にあった。
ホンハイは中国政府が進めるIT先端技術振興策(中国製造2025)のなかで、競争力を高めようとしている。そのため、シャープの再建においてもホンハイはIoT(モノのインターネット化)関連の技術・テクノロジーを重点的に強化してきた。
その結果、シャープの業績と財務内容は急速に回復した。特に、中国での売り上げ増加は顕著だ。2009年度、売上高の15%が中国で獲得されていた。2017年度、中国での売上高の割合は41%にまで拡大している。これは、シャープが海外の要因(ホンハイによる経営改革と中国の需要)に支えられて業績を伸ばしてきたことにほかならない。他方、同期間の国内売上高比率は50%超から24%にまで落ち込んだ。
ホンハイは、中国事業のさらなる強化に注力している。すでにホンハイは亀山工場で行っていたアップルのiPhoneに搭載されている顔認証のためのセンサー部品の生産を中国の工場へ移管した。これは、ホンハイが中国政府との関係を強化しようとしていることの表れと解釈できる。