ファーウェイ、米国の企業秘密を盗んでいない可能性…中国政府とZTEに利用されたのか
そして、「ZTEが司法取引としてアメリカ側に密告」の下りでは、次のような解釈ができる。
ZTEは18年4月16日、米国の輸出規制に違反してイランや北朝鮮にスマホ等の通信機器を輸出していた容疑により、米司法省からインテルやクアルコムの半導体の輸入を7年間禁止された。この制裁により、ZTEは操業停止に追い込まれた。ところが、わずか3カ月後の7月13日、ZTEが米国の要求する罰金を支払い、経営陣を刷新したことから、この制裁は解除された。もしかしたら、この時にZTEと米司法省の間で「ファーウェイの違法行為を伝える代わりに、制裁を解除してくれ」というような司法取引がなされていたのかもしれない。
習主席が指名する5大プラットフォーマーにファーウェイはない
「ファーウェイは中国政府の手先ではない」かもしれないし、「ZTEが米国と司法取引をしたために、米国がファーウェイに猛攻撃を仕掛けている」のかもしれない。そして、これらが正しいと思える証拠(傍証も含む)が散見される。
例えば、2月4日付日経新聞第1面に『米中衝突 ハイテク覇権(1) 中国「BATIS」の野望』というコラムが掲載された。まず、冒頭部分には以下の記載がある。
<中国専門誌によると、次世代高速通信「5G」関連特許に占めるファーウェイの割合は29%でトップ。スウェーデンのエリクソン(22%)や韓国サムスン電子(20%)を上回る。実用化でも先行し、ファーウェイ幹部は「当社なしではオーストラリアの5G構築コストは最大40%上昇する」と豪語する。
ところが、後半には以下の記載がある。
<「BATIS」。習近平(シー・ジンピン)指導部が国家プロジェクト「AI発展計画」で17~18年に指名した5大プラットフォーマーだ。百度(バイドゥ、自動運転)、アリババ(スマートシティー)、テンセント(ヘルスケア)、アイフライテック(音声認識)、センスタイム(顔認識)の5社は補助金や許認可で手厚い支援を受ける>
この2つの記述には矛盾があると言わざるを得ない。一方で、ファーウェイが次世代高速通信「5G」で圧倒的な優勢を示していると書いているのに、その一方で、習主席が指名した5大プラットフォーマーのなかにファーウェイの名前がないからだ。
ここで、ファーウェイが中国政府の手先ではなく、それどころか中国政府に反発しているとすれば、5大プラットフォーマーのなかにファーウェイの名前がないことに納得できるのだ。
ファーウェイが米国の技術を盗用した証拠がない
筆者もライターを務めているEE Times Japanでは、ここ数年、中国に焦点を絞って取材を続けている吉田順子氏が2月12日、『Huaweiについて否定的な報道が目立つ4つの理由』という記事を書いている。記事のなかで吉田氏は、次のように論じている。
<第3に、Huaweiにかけられた嫌疑は依然として確固たる証拠を欠いていることを認めざるを得ない。Huaweiは人民解放軍と共産党から命令を受けているだろうか。Huaweiは自社のネットワーク機器にどのようなバックドアを設置したのだろうか。こうした疑問の答えはない。
第4に、情報機関がHuaweiについて実際に何を把握しているかを明らかするのは容易ではない。情報機関が効果的な対策を講じるには、つかんでいるほぼ全ての情報を秘密にしておかなければならないからだ>
まったく同感である。米国は「ファーウェイが米国の知的財産を盗んだ」とか「通信機器にバックドアを仕掛けた」などと主張しているが、その具体的な証拠を筆者は見たことがない。どなたか、具体的な証拠をご存知の方がおられたら、ぜひ教えていただきたいと思うほどだ。
これについては、当初は「米国がカナダに要請してファーウェイの副会長を逮捕するほどだから、米国は確かな証拠を握っているに違いない」と思っていた。ところが、遠藤先生の記事によれば、“ZTEがファーウェイを米国に売った”ことによるものであり、本当は、ファーウェイは何も悪いことをしていない可能性があるというわけだ。
米国や中国の言うことに騙されてはいけない
もしかしたら、ファーウェイは“ZTEに売られた”ことによって、米国に濡れ衣を着せられ、攻撃されているのかもしれない。そして、中国政府はそれを利用して、ファーウェイを支配下に置きたいと思っているのかもしれない。
もしそうだとしたら、米中ハイテク戦争の構図が、随分違った景色に見えてくる。ファーウェイは精力的に技術開発を行って、フェアに次世代高速通信「5G」の最先端技術を開発した先進的な企業であり、人類の文化的生活や企業活動に大きな変革をもたらそうとしている超優良企業なのではないだろうか。
吉田氏が前掲記事の最後で次のように述べている。
<われわれは、中国を取材し続けるべきである。そして、Huaweiを含む、さまざまな誤解や齟齬(そご)を明らかに、解きほぐすのが役割だろう>
上記の“われわれ”とは、ジャーナリストを意味する。筆者も“われわれ”の一人として、“真実は何か”を追求していきたい。読者諸賢においては、米国や中国の無責任な発言に扇動されることなく、“真実は何か”を見極めるようお願いしたい。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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https://www.science-t.com/seminar/A190522a.html
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