「日経ビジネス」の追撃報道に腹を立てたのか、伊藤忠は同誌が読者の手元に届く直前の2月28日、「デサントとの協議打ち切り」を発表した。
他方、3月7日付日本経済新聞は「もがくデサント、幻のトップ交代合意も泡 伊藤忠TOBまであと1週」とする伊藤忠寄りの記事を掲載した。
「両社は水面下で協議を重ねてきた。計4回にわたって会議し、今後のデサントの経営体制などを協議した。複数の関係者によると、その場では、次期トップは伊藤忠から迎えることが大筋で固まった。だが、デサント社内の反発が強かったほか、デサントが求める伊藤忠以外の社外取締役の増員など意見の相違もあった。結局、伊藤忠は2月28日、協議の打ち切りを発表した」
「伊藤忠はTOBの完了を虎視眈々と狙う。伊藤忠にはデサントの第2位の株主で中国のスポーツ用品大手、安踏体育用品の最高経営責任者(CEO)も賛同しており、TOB後には過半近くの株式に影響力を持つ。経営陣の刷新を念頭に臨時の株主総会の請求も示唆している」
「ただ、デサントの労働組合などがTOBへの反対を表明するなか、資本の論理で圧力をかけてもデサントの現場が伊藤忠についてくるかという問題も残る」と付け足してはいるが、伊藤忠寄りの記事という印象は拭うことができないだろう。
メインバンクは伊藤忠のイメージダウンを懸念
金融筋によると「伊藤忠のメインバンクである、みずほフィナンシャルグループが(敵対的TOBは)伊藤忠のイメージダウンにならないかと、懸念を示した」という。みずほ銀行はデサントのサブ行でもあり大企業による中堅企業“イジメ”と受け取られかねないからである。
「岡藤氏には、伊藤忠の繊維を自分が発展させたという自負がある。言うことを聞かない会社は許せないんだろう。伊藤忠のアパレルは海外ブランドのライセンス契約が多いので、やはり自社ブランドは持ちたい。それで、デサントにこだわるのだ」(伊藤忠の元役員)
状況は、必ずしも伊藤忠が“圧勝”といえなくなってきた。
「伊藤忠はデサントについて、『韓国に集中しすぎる』と批判してきたが、デサントは業績がいい。つまり、韓国シフトが当たっているといえる。伊藤忠は、今後、景気が長期にわたって低迷する可能性が高い中国向けを強化せよと言っているが、『中国向けってどうなのよ』という話だ」(商社担当の外資系証券会社のアナリスト)