特に菓子メーカーにとって生命線である製品開発・設備投資については、宏之氏の時代は「工場への投資は必要最小限とする方針から設備投資は停滞気味」(ロッテ社員)だったが、昭夫氏がトップを務めるようになってからは一転し、将来の需要が見込めるアイスクリームとチョコレート事業への設備投資を積極的に実施する方針に転換され、新製品投入も増えて売上高も順調に回復した。
特に大ヒット商品となった「乳酸菌ショコラ」は、わずか半年で商品企画から製造設備の開発、販売まで行い、新製品の垂直立ち上げに成功した。ロッテ社員たちのモチベーションを上げるという効果もあり、これを全面的にバックアップした昭夫氏の社内での求心力も高まったといわれる。
息子は大手証券会社に勤務
昭夫氏の代表取締役復帰で、兄弟による骨肉の争いは「昭夫氏の勝利」で終わるのではないかという見方もある。しかし内情を調べてみると、事情は違うようだ。
というのも、昭夫氏は自らの息子をロッテには入社させていない。息子は大手証券会社に勤めており、現在のところ「ロッテの経営を担うという話は聞こえてこない」(ロッテ社員)という。
また18年4月には、グループ傘下の製菓3社(ロッテ、ロッテ商事、ロッテアイス)を合併させて、「将来的には上場を目指す」と宣言。さらに、新ステージに入ったことをアピールするため、新会社の代表取締役社長にロッテ生え抜きでロッテ商事専務だった牛膓氏を据えるなどガバナンス改革を進める。15年8月には初の社外取締役を選任したほか、韓国においては株式の持ち合いによって複雑になっているグループ会社の再編にも手をつけ始めている。
つまり、昭夫氏としては、経営を世襲するのではなく、日本、韓国でそれぞれ上場させ、「所有と経営の分離」を果たすというビジョンを持っているとみられる。宏之氏が創業家支配に固執する一方、昭夫氏は長期的な企業価値の増大に向けたガバナンス経営を目指して動き始めているともいえよう。
上場が最後の難関か
正常化の道を探るロッテだが、残る関門は2つだ。
ひとつは、前述した韓国での昭夫氏の裁判の行方。政治問題化しているだけに先は見通せず、結果を待つしかない。それだけに傘下企業の株式上場などを果たして、“脱創業家”の経営体制へシフトしていく必要がある。
その「傘下企業の上場」が最後の難関だ。
代表取締役に復帰した昭夫氏の有罪判決リスクがあるなかで、上場を認められるのかというリスクがある。とはいえ、有罪となっても経営が存続できるよう、ガバナンス改革を急いでいるのは確かだ。
一筋縄では行かないが、ロッテの正常化に向けた最終局面が近づいているのは確かだろう。
(文=石井和成)