産地では、どうしても価格競争になりがちだ。しかし、価格競争になってしまっては手間暇をかけた高級茶をつくり続けることができず、文化が失われてしまう。本多氏が目指すのは、静岡のそれぞれの産地の個性ある銘茶をトップブランドとして確立していくことだ。
古くから「香味の良い良質な茶は、比較的冷涼な河川の上・中流域の、朝霧の立つような地域で生産されている」といわれ、機械化の難しい中山間地の茶園は高級茶の産地として恵まれた気象条件を併せ持っているのである。静岡県内には、そのような中山間地に川根・天竜・本山など煎茶の名産地が点在し、それぞれに産地を支えてきたお茶の匠とお茶が存在する。
「味や香りだけでなく、楽しみ方を含めた食文化としての茶を伝え、本当に価値のわかる人の審美眼にこたえ、高みを突き抜けたい」(同)
最高級の静岡茶を新しいシーンや組み合わせで提供することでお茶の価値を創造し、現状を打破したいと本多氏は話す。するが企画観光局の担当者も「日本料理・日本の伝統文化の体験を目的に訪れる欧米豪の富裕層をはじめとした訪日外国人(インバウンド)の需要を掘り起こしていきたい」と意気込む。同局では、ほかにも夏に静岡茶を使ったかき氷「茶氷(ちゃごおり)」を静岡県中部地区のカフェなどで売り出すなど、さまざまなPRで静岡茶を盛り上げる。
玉露の2倍のうまみ成分を含む「白葉茶」
一方で、消費トレンドにこたえた大きな動きもある。抹茶生産の主流は京都や愛知であったが、トレンドに乗って静岡県内で抹茶の原料であるてん茶工場の新設が続き、輸出拡大への期待がかかる。
また、県内の研究機関ではうまみを求める近年の消費者の嗜好から、玉露と比べて約2倍のうまみ成分が含まれているという「白葉茶(はくようちゃ)」の研究開発など、消費トレンドにこたえた茶葉の研究も進められている。
「高み」を意識した静岡茶のブランドづくりと消費トレンドにこたえた需要拡大。難局を乗り越えようとするお茶王国・静岡の今後の取り組みに注目したい。
(文=林夏子/ライター・静岡茶ティーレポーターお茶ジェンヌ)
【※1】
「農林水産統計|平成30年産茶の摘採面積、生葉収穫量及び荒茶生産量(主産県)」
【※2】
「静岡県茶業の現状<お茶白書>(平成27年3月版)p.62」
【※3】
レストラン浮殿にて、夕食メニュー(17:00~21:00)にて裏メニューとして提供(5日前まで要予約・1日限定5食・税込み¥10,000)
【※4】
「ふじのくに山のお茶100選」