日産自動車の新しい会長・社長を誰にするのかと同様、三菱自動車工業のアライアンスからの離脱の動きが、今年秋から冬にかけて表面化しそうだ。
環境対応の切り札とされる電気自動車(EV)。中核部品である電池(リチウムイオン電池)をめぐり、海外メーカーからの調達戦略が日産、仏ルノー、三菱自の間でギクシャクしている。カルロス・ゴーン日産前会長の逮捕後、ルノーと日産の関係が悪化。「空白の4カ月」といわれる状況を呈しており、いろいろな案件が決まりにくくなっていた。
こうしたこともあって、三菱自は3社連合とは別枠で、EV用の電池の調達の道を独自に模索し始めた。EVでは、日産や三菱自から明らかに出遅れているルノーが、電池などの調達を取りまとめる体制になっている。これ自体が、かなり歪といえる。ゴーン被告の独裁の弊害のひとつと酷評する向きもある。
日産、ルノー、三菱自の3社連合は3月12日、「アライアンス・オペレーション・ボード」を設立すると発表した。三菱自の益子修会長兼CEO(最高経営責任者)は「企業連合は、それぞれのステークホルダーに責任を持つ3社の自律的、継続的なものだ。今後も持続的な成長ができると信じている」と発言した。「ステークホルダーに責任を持つ」とは、実に微妙な言い回しだ。三菱商事、三菱重工業、三菱UFJ銀行が三菱自のステークホルダー(利害関係者、大株主)だ。
2月14日、ルノーの新しい会長に就いたジャンドミニク・スナール氏が初来日し、日産の西川廣人社長兼CEO、三菱自の益子氏と同日夜、都内のホテルで食事をしながら約1時間半にわたり会談した。翌15日、これとは別に益子氏と個別に会っている。
関係者によると「このトップ会談に三菱商事、三菱UFJ銀行の幹部が同席していた」という情報もある。三菱商事は「ゴーンのくびきから脱する機会」と考えているフシがある。三菱自が3社連合から離脱する可能性は、従来以上に高まっている。そうでなくても、三菱自の生え抜き社員は「日産・ルノーに、電気自動車など“いいとこ取り”をされている」と不満を募らせているからだ。三菱商事・三菱自は、自前の東南アジアの販売網に日産・ルノーがタダ乗りしようとしていることに対して、怒りに近い感情を抱いているともいわれている。
三菱自とホンダが組む“秘策”も
三菱自の離脱は三菱グループの強い意向との見方がある一方、益子氏は「自分を救ってくれたゴーン被告に対して、いまだにシンパシーを抱いている」(関係者)ともいわれる。だが、三菱グループの首脳たちはもっとドライだ。「安倍政権は、三菱グループを日産の後ろ盾としてルノー・フランス政府と戦う戦略」(永田町筋)との、かなり偏った見方も水面下で静かに流布し始めた。
自動車再編の台風の目は三菱自、そしてトヨタ自動車グループに属していない本田技研工業(ホンダ)だ。ホンダのメインバンクは三菱UFJ銀行。ホンダは米ゼネラルモーターズ(GM)と提携しているが、四輪事業が足踏みしている。軽自動車「N-BOX」シリーズ以外にヒットしているクルマがない。二輪車事業で食べているのが現状だ。三菱自が3社連合から離脱してホンダと組むというシナリオであれば、三菱UFJ銀行、三菱商事とも「否」とはいわないだろう。
日産・ルノー・三菱自の3社連合の一角が崩れると、それが自動車再編の号砲となる可能性は高い。3社連合の危うい均衡を、より危うくしている震源地が三菱自なのかもしれない。
(文=編集部)