「7・5・3」とは入社3年後に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職する現象だ(厚労省の直近調査では「6・4・3」)。その離職理由の大半が、長時間労働・サービス残業、セクハラ・パワハラ、低賃金、不透明な評価、成果の横取りなどに嫌気が差したなどの「こんなはずじゃなかった退職」だ。要するに入社してみたら、そこは「ブラック企業だった」「ブラック上司が横行していた」というわけだ。
そして、一部ネット上などでブラック企業経営者との悪評も高いワタミ創業者で元会長の渡邉美樹氏が、7月の参議院議員通常選挙で当選したことなどもあり、ブラック企業の反対のホワイト企業にも改めて関心が高まっている。
ホワイト企業という言葉は、今年4月に「東洋経済オンライン」が発表した「ホワイト企業トップ300」でにわかに現れた新語だ。
●ホワイト企業の定義
同サイトは特にホワイト企業の定義をしているわけではないが、この「トップ300」は、同社発行の『CSR企業総覧』掲載1128社のうち、「入社3年後に何人在籍しているかの調査に回答のあった799社のデータを使い、新卒社員の定着率の業種別集計と個別企業のランキングを作成したもの」と説明している。
換言すれば、「ホワイト企業トップ300」は「働きやすい会社」のランキングといえる。これがブラック企業と対比され、「ホワイト企業」の新語が生まれたゆえんと思われる。
この調査によれば、入社3年以内の全体の平均定着率は86.0%。男性87.5%、女性84.8%と男女差はあまりない。
次に、業種別では鉱業の98.4%、電気・ガスの97.7%、海運の97.62%が「定着率の高さベスト3」になっている。
一方、「定着率の低いワースト3」は証券・商品先物取引の63.9%、小売業の69.6%、サービス業の73.6%。
最後に個別企業のランキングを見ると、3年間に1人も辞めていない定着率100%の会社が92社にも達している。
同書は「ベスト300社」について、「インセンティブ向上への諸制度欄を見ると、社内公募や企業内ベンチャー、資格取得奨励、海外社費留学制度など様々な制度が並び、これらに満足している若手社員が多いと予想される」とコメントしている。
そして、定着率100%の92社は「ブラックの反対の「『超ホワイト企業』と呼んでもよさそうだ」と結論付けている。
●ブラックに勤めると転職先もブラック
ここで、ホワイト企業の条件を探るためにも、改めてブラック企業についても触れておきたい。
世間でブラック企業のレッテルを張られている会社は小売、飲食、訪問販売、サービスなど労働集約型業種に多い。これらの業種では離職率が高いので人員不足が常態化しており、正規・非正規雇用を問わず就職が比較的容易といえる。また、これらの業種には中途採用の場合は「面談即決」と「常時募集」、新卒の場合は「大量採用」の目立つ会社が多い。
こうした会社は、いざ入社してみると厳しいノルマや長時間労働、サービス残業、低賃金などを強いられ、一言でも文句を言うと「お前の代わりはいくらでいる」と上司に面罵され、使い捨て同然の扱いをされることが多い。その結果、心身ともに疲弊し、限界に達すると用済みとして自己都合退職に追い込まれるのが通例といえる。
また、こうした会社では専門知識がなくてもできる業務に就かされるため、社員教育は実質的に皆無。「入社初日から先輩の見よう見まねで仕事をさせられる」(元ブラック企業社員)ケースが多い。仕事も単調だ。会社には社員のキャリア形成の考えがないので、社外で通用する汎用性の高いスキルを身につけるのも難しい。
技術系の場合でも、社内でスキルアップできる環境がないので、「入社前に持っていたスキルも陳腐化する一方」(同)になる。
ブラック企業に入社してしまうと、転職も不利だ。
中途採用において、転職回数の少なさと業務熟練度を重視するわが国においては、ブラック企業での勤務経験はキャリアにならず、逆に「履歴書を汚す」結果になる場合が多い。特に内情を知られている同一業界での転職活動では「ブラック企業の勤務経験自体が採用時のマイナスとなり、ホワイト企業への転職の壁になるケースが多い」(人材会社関係者)。
その結果、前職を問わないブラック企業からブラック企業へと渡り歩く悲劇が、後を絶たないようだ。
では、ブラック企業の特徴は何かというと、これが意外に難しい。多数出版されている解説本の著者がそれぞれの視点で特徴づけているので、これらを集約すると大半の企業に特徴が当てはまるからだ。
ただ、社員募集時の「新卒は大量採用、中途は常時採用、初任給の内訳が曖昧、高給アピール、業務内容がよく分からない、面接のステップが少ないという点はブラック企業に共通しているので、こうした会社には要注意」(同)というのが目安になりそうだ。