ある中規模の政令都市の典型的な公共ホールを例として、調べてみました。入場料は3000円に設定し、日曜日の午後にコンサートを行います。この場合、ホールの賃貸料金は7万5000円。しかし、オーケストラは急にステージに上がって演奏できるわけではないので、朝からホールを押さえてリハーサルをすることが必要です。それだけでなく、冷暖房費も別にかかり、これもバカになりません。計算すると、合計二十数万円になります。さらに、これからが大変で、ドンドン加算されていきます。
コンサートが近くなるとホール事務所で打ち合わせを行いますが、その際、まず「楽屋はいくつ必要でしょうか?」と聞かれます。この楽屋使用料は、ホールの料金に入っているかと思ったら、そうではありません。30人部屋が午前630円、午後750円。パーティルームを借りるのに比べたら、ものすごく安いのは、公共施設の良さです。30人部屋を2つ、45人部屋を2つ。個室を3つ借りても1万円にも満たないのですが、舞台裏で着替えをするわけにもいかないので、楽屋は必ず使用します。それにもかかわらず、最初からホール料金に含まれていないことに、ほとんどのオーケストラが自前のホールを持っている欧米から帰国した際、とても驚きました。
それだけでは終わらず、次は照明料金の話になります。特殊照明ならともかく、ステージを最初から最後まで真っ暗闇で演奏するはずもなく、ステージの照明にまで料金設定がされているのも不思議です。公共ホールでは、備品も安い価格設定がされており、楽員の椅子1脚50円、譜面台も50円と、駄菓子屋での買い物のような値段。しかし、安いからといって気軽に、マイクロフォンや録音機材なども借りていると、コンサート直前になって、最初の段階では予期していなかった大金を追加で支払うことになります。
ホールの保管備品でもある椅子や譜面台の50円と、冒頭の逗葉新道通行料金の100円は、金額が少額なだけに、なんだか似ているように思ってしまいます。しかし、好意的に考えてみると、長座布団1枚と、金屏風1層だけでいいという需要もあるかもしれないし、楽屋も個室楽屋が3室もあれば十分という団体もあります。さまざまな種類の団体の需要に合わせて、少しでも安く住民の方々に貸し出すための工夫なのかもしれません。
最後に、以前、地方のアマチュアの市民オーケストラで演奏している友人に聞いたのですが、市民オーケストラを始めるきっかけのひとつとして、「その街にコンサートホールができること」があるそうで、そのほとんどは公共ホールです。この友人も、在住している街に公共ホールができたことで、オーケストラを結成したそうです。確かに、ホールというハードをつくった後、実際の活動を担うソフト面をどうするかということが、各公共ホールの共通の悩みであります。とはいえ、まずはホールができただけでも、その土地には文化が育ち始めるきっかけになるのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)