値上げ後の明暗
次に、「値上げ」の面で各社がとった施策を見ていきたい。
すき家は17年11月に、松屋は18年4月に、それぞれ定番商品で値上げを実施した。原材料費や人件費の増加を吸収するためだ。しかし、値上げは客離れリスクがつきまとう。そこで、すき家は客足への影響が大きい牛丼の並盛り(350円)の価格は据え置いた。松屋も、首都圏を中心に6割の店舗で販売している主力の「プレミアム牛めし」の並盛り(380円)の値上げを見送っている。
すき家と松屋の値上げは成功したといえるだろう。どちらも値上げ以降、既存店の客数がやや低下したものの、客単価が大きく上昇したため、売上高はプラスとなる月が大半となっているためだ。主力商品の価格を据え置いたことが大きいだろう。
一方、吉野家は14年12月に牛丼の値上げを実施し、主力の並盛りは80円引き上げ380円としたが、その後に深刻な客離れが起きた。そのためか現在まで牛丼の値上げは実施していない。そうしたなか、原材料費や人件費などのコストが上昇し、吉野家の利益を圧迫している。
そこで吉野家は5月にサイドメニューを値上げし、コスト高の吸収を図った。「みそ汁」や「玉子」「お新香」などを10円、「お新香みそ汁セット」などサイドメニューを複数含むセットを20円引き上げた。ただ、この値上げは5月からのため、19年2月期の業績には影響を与えていない。影響が出始めるのは今期からとなる。
19年2月期に吉野家は主力商品で値上げできなかった。一方、すき家と松屋は巧妙な値上げで客離れを最小限に抑え、厳しい戦いを乗り切っている。
こうして吉野家は商品と値上げの面において競合に後れをとり、業績で苦戦を強いられることになった。吉野家は、今期は特にこの2つに留意する必要がありそうだ。ただ、商品の多様化や高頻度での商品投入は、手間やコストがかかるというマイナス面があり、値上げは客離れのリスクがある。どちらも慎重な対応が必要で、難しい判断を迫られることになるだろう。
すき家と松屋は今のところ、商品と値上げの面で奏功しているので業績は好調だが、予断は許さない。消費者の移り気が激しい外食業界では潮目が急変するリスクが常につきまとう。競争環境を慎重に見極めた上で判断を下すことが今後も求められそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。