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新田龍「現代ブラック企業総論 ~ブラック企業とは何か~」(第2回)

“よくわからない”ブラック企業問題〜誰にとっていい/悪い企業?日本企業の多くはグレー

文=新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

 さらに、「誰から見るか?」という視点を加えると、評価はさらに複雑に変化する。具体的には、アルバイト、契約社員、派遣社員、正規平社員、正規役職社員、経営者、株主、顧客、社会……などだ。 

 あまり細分化してもかえってわかりにくいので、「組織や事業は健全か?」を横軸に、「待遇は良いか?」を縦軸にとって表にしてみると、冒頭の表「ブラック企業を考える9つの象限」のように表される。

 このように、一言で「ブラック企業」といっても、このうち「グレー」と「ブラック」計6つの象限いずれかに当てはまり得るものであり、何について議論しているのか、目線合わせができていないと錯綜することになる。

 以下で、それぞれの象限の特徴を簡潔に述べておきたい。

W1:ホワイト優良企業

 おもにエスタブリッシュな大企業が当てはまる。中でも、「成熟産業で」「独自技術によって」「安定したシェアを持ち」「倒産しにくい」といった基盤があれば、それほど残業をせずとも、じっくり働ける環境である可能性が高く、入社希望者からは人気となる。

W2:健全運営の中小企業、公務員など

 大手ほどの待遇や福利厚生などはないが、同様にそれほど激務ではなく、安定した雇用や給与が得られる期待ができるところ。堅実経営の中堅企業や地方公務員などが当てはまる。

W3:ホワイト企業勤務の派遣/アルバイト

 これは「企業」というより「雇用形態」になってしまうが、給与は安くとも、ブランド力のある職場で働けることが魅力と捉えられる。非正規であれば、比較的職務も単純作業となり、責任も軽めであることが多い。そのようなプレッシャーが弱めの労働環境は、一部若者の間で「マッタリ働ける」と表現され、歓迎される。

G1:外資や上場ベンチャーなど実力主義の会社

 激務で相応のプレッシャーもあるが、高待遇である、組織が成長していてやりがいがある、などの理由から、リスクを認識した腕に自信のある人の間で歓迎される環境。外資系金融、外資系コンサルティング、上場ベンチャー企業のほか、国内大手でも商社や広告代理店などはこの領域に入る。

G2:日本の一般企業(中堅企業)

G3:日本の一般企業(小規模・零細企業)

 日本の多くの会社は、このいずれかの領域に入る。事業自体に違法性はないが、サービス残業など「厳密には労基法違反な労働環境」が温存されている会社。過重労働気味だが、日本の労働政策の方針として「安定した雇用と給与」を確保することが優先されているため、必然的に労働環境面が劣後順位になっている。

B1:反社会勢力、故意に違法な会社

 違法性を認識しながら高収益を得ることを最優先している会社。典型的な例としては暴力団のフロント企業など、反社会的な存在をイメージしていただけるとよい。しかし中には、一般的にホワイトと認識されている企業の中にも違法性の高い仕事をしている部署や担当があり、たまにニュースになる(私の「ブラック企業アナリスト」としての役割は、後者に関して内部からの情報を得た告発である)。

B2:追い詰められて違法にならざるを得ない会社

 反社会勢力ほどひどくはないものの、「顧客を騙す」「違法な営業手法」「脱税」など、事業運営に反社会性のある企業。もともとはホワイトやグレー領域の会社だったが、業績悪化などを機に、筋の悪い事業に手を出すとここに入ることになる。確信犯的な悪意というよりも、追い詰められて陥るタイプといえる。

B3:底辺ブラック企業

 故意に違法行為を行い、顧客には迷惑をかけ、社員を使い捨て、経営者の私利私欲が優先される会社。零細規模の企業が多く、ニュースになることはほぼないが、多くの問題が起こっている。

 マスメディアで「ブラック企業」に関する報道を目にしない日はないくらいだが、実際それはどの象限で起きていることで、そこでは何が問題とされているのか、見極める目を持っておきたい。中にはまったく本質的ではない議論や、ブラックとは言えないような内容のものもある。次回以降は具体事例を引き、そのような不毛な議論を斬っていこう。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

労働環境改善による企業価値向上支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。労働問題・パワハラ・クビ・炎上トラブル解決の専門家。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書25冊。

Twitter:@nittaryo

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