ソフトバンクグループ(SBG)が東京国税局の税務調査を受け、2021年3月期までの2年間で約370億円の申告漏れを指摘された。指摘されたのはM&Aに関連した支出の税務処理で、1月24日付日本経済新聞記事は次のように報じた。
<焦点となったのはM&Aの関連支出が「費用」か「資産」かという税務処理を巡る判断だ。SBGは20年4月に傘下だったスプリントとTモバイルUSの合併に伴ってスプリント株を手放し、新会社の株式を取得した取引に絡み、デューデリジェンス(資産査定)費用や弁護士費用などを雑損失として計上した。雑損失は税務上の費用として損金算入され、税負担の減少につながる場合がある>
SBGは1月24日、「2020年3月期と2021年3月期にかかる税務調査の結果について」と題する報告をホームページにアップした。
<当社は、法人所得で約370億円の修正申告を行いました。これは、経費計上タイミングなどの見解の相違によるものです。従って、仮装、隠蔽に課せられる重加算税の対象となる修正はありません>
なぜ見解の相違が発生したのか。M&A関連支出の税務処理は見解の相違が発生しがちな争点なのか。またはSBGゆえに生じた見解の相違なのか。公認会計士・税理士の植村拓真氏は「SBGの税務処理に関しては詳細な事実関係が開示されていないので一般論としてお話ししたい」と断ったうえで、こう説明する。
「今回の論点は判断か難しい。M&A関連支出を費用として処理するか、資産として処理するかは、そのM&Aを意志決定した時期にかかっている。支出したのが意思決定の前なら費用になるが、意思決定の後なら資産になる。報道されたSBGの税務処理では見解の相違が発生しやすい」
意思決定した時期の特定については定義されていないので、見解の相違が生じやすい。植村氏が指摘するのは、形式的な意思決定と実質的な意思決定の違いである。
「一番の意志決定は取締役会で、その会社の買収を決定した日とみなすことだが、取締役会の議事録が証拠になるとは限らない。議事録に書かれているのは形式的な意思決定で、その前に開かれた他の会議で買収が確定するケースもあるが、税務当局が重視するのは実質的な意思決定だ。ここが見解の相違になりやすく、SBGの件もそうだったのではないかと推察できる」(植村氏)
M&Aの意志決定は手続きの上では基本合意の締結だが、実質的な意思決定はおもにデューデリジェンス(買収対象企業の評価)の着手時期である。着手する前にM&A関連費用を支出すれば経費と見なされ、着手した後に支出すれば資産と見なされるのが一般的だが、さらに踏み込んで意思決定の有無を認定することもある。その際にポイントとなってくるのが、デユーデリジェンスの対象数だ。買収対象を1社に特定してデューデリジェンスを実施する場合と、複数の候補企業に対して実施する場合がある。前者なら買収を確定した上での実施だが、後者はまだ確定した段階とはいえないと判断されやすい。
では、SBGが修正申告を想定の上で、経費として税務処理した可能性はあるのか。
「買収の意志決定の前に関連費用を支出した企業が経費として税務処理することに、悪質性があるとまではいえない。M&Aを多く行ってきた企業なら、税務当局との間に論点が発生することを認識しているはずだが、経費として認めてもらえる余地があるのではないかという意図で処理することはあるかもしれない」(植村氏)
当然、顧問の税理士法人も税務当局の見解に精通しているはずだが、クライアント企業に指摘しても税務処理の最終判断を下すのは、あくまで企業側である。税理士法人は当局の照会に備えて、争点になることを事前に指摘した事実を書面に残しておくことが通例という。
制度を上手に活用か
今回の件に限らず、SBGは納税をめぐる話題に事欠かない。前出の日経記事によると、SBGで数百億円以上の申告漏れが明らかになるのは、18年にタックスヘイブン(租税回避地)の子会社などに関わる約900億円の申告漏れが発覚して以降4度目。また、SBGに07年3月期以降の15年間で法人税が生じたのはわずか4期にすぎない。SBGは適正な節税の域を超えた納税回避という方針を貫くようにも見えてしまうが、これは穿った見方なのだろうか。
「SBGの税務処理問題はたびたび表面化するので、納税を回避したいという姿勢が若干はあると見られても仕方がないかもしれない。ただ、SBGの各事業会社はそれぞれ単体で納税している。持株会社は事業を行わず、収益は事業会社からの配当金のため非課税なので、制度を上手に活用しているともいえる。持株会社がM&Aをどんどん行っているので、税務当局との見解の相違が発生しやすいという見方もできるが、当然、税務当局はSBGをマークしていると思う」(植村氏)
SBGは今後も、税務当局との間で見解の相違を発生させるのだろうか――。
(文=Business Journal編集部、協力=植村拓真/公認会計士・税理士)