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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

今年度の名目設備投資、32年ぶりの100兆円台か、上昇の理由…経済停滞から脱却か

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1.引き続き強い今年度の設備投資計画

 新型コロナウィルス感染症に伴う影響やロシアのウクライナ侵攻等により日本経済を取り巻く環境が引き続き厳しいなか、今年度における企業の設備投資計画も旺盛である。実際、先々月公表された1-3月期の法人企業景気予測調査(財務省・内閣府)の23年度設備投資計画を見ると、GDP設備投資の概念に最も近い「ソフトウェアを含む設備投資額(除く土地投資額)」が全産業合計で前年度比+9.1%となっており、22年度計画の同+8.6%に引き続き高い伸びを記録している。

 また、本日公表された3月短観の設備投資計画(日銀)を見ると、「ソフトウェアを含む設備投資額(除く土地投資額)」が全規模合計で22年度が前年比+11.0%に下方修正された一方で、23年度が同+4.4%となっており、22年度の当初計画(同+3.4%)を上回る伸びとなっている。

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 成長会計に基づけば、これまでは有形・無形の固定資産の蓄積が停滞することで、資本投入量や全要素生産性の低迷を通じて潜在成長率の低迷につながってきた。このため、逆説的に考えれば、経済全体や企業それぞれの成長期待が高まることによって設備投資が拡大すれば、需要拡大を通じた生産性向上により賃金も上がり、経済成長の好循環につなげることによって経済の長期停滞から抜け出すことができる可能性がある。

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2.背景に政府の国内投資誘導策

 計画が大幅に増加している背景として、令和4年度補正予算における国内投資誘導関係の主な事業の押し上げが指摘できる。実際、円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復強化として、円安を生かした経済構造の強靭化向けに約1.1兆円の予算が組まれている。内訳としては、先端半導体生産基盤整備基盤として4500億円、農林水産業の輸出拡大として440億円、サプライチェーン対策として従来半導体に3686億円、工作機械・産業用ロボットに416億円、航空機部素材に417億円、等である。

 また、新しい資本主義の加速として、成長分野における大胆な投資の促進向けに約3.1兆円の予算が組まれている。内訳としては、科学技術・イノベーションとして先端国際共同研究推進事業に501億円、バイオモノづくり革命推進事業に3000億円、宇宙に639億円、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業に2000億円、経済安全保障重要技術育成プログラムに2500億円、等である。さらにGXではグリーンイノベーション基金に3000億円、グリーン社会に不可欠な蓄電池の製造の製造サプライチェーン強靭化支援事業に3316億円、等、DXではポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業に4850億円、革新的情報通信技術基金事業に662億円、デジタル田園都市国家構想交付金として800億円、等である。

 それ以外にも、省エネ・再エネの推進に約0.4兆円、中小企業等には事業再構築促進と生産性革命推進の事業に約0.8兆円、インバウンド観光の復活、観光地・観光産業の再生・高付加価値化等へ約0.2兆円計上されていることから、設備投資・研究開発投資向けに計5.6兆円の予算が計上されている。

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3.今年度の名目設備投資計画は1991年度以来の水準に

 そこで、これまでの3月短観の設備投資計画と同年度のGDPにおける名目設備投資額の関係を基に、今年度のGDPにおける名目設備投資の金額を予測してみた。すると、21年度実績の90.1兆円から22年度は96.0兆円、23年度は101.8兆円にまで拡大する計算となる。これが実現すれば、実に1991年度の102.7兆円以来の水準まで日本の設備投資が拡大することになり、今年度の経済成長率の大きなけん引役になることが期待される。

 実質ベースで同様の試算を試みても、実質設備投資(2015年基準)は21年度実績の87.2兆円から22年度は92.3兆円と既往ピークを更新し、23年度は96.9兆円にまで拡大することになる。

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4.円安を利用し、国内の強みへの投資支援が必要

 諸外国を見ても、民間企業設備投資の呼び水となるような政府の支援策には積極的である。例えば中国では、「中国製造 2025」の中で、重要分野の7割国産化を目標としている。また「国家集積回路産業投資基金」を設置し、半導体関連技術に計5兆円を超える大規模投資を実施している。これに対して、米国バイデン政権の成長戦略でも、超党派インフラ投資法で総額1兆ドルのインフラ投資に加え、半導体・科学技術法として国内半導体製造業へ5年間で527億ドルの資金援助、インフレ抑制法として4330億ドルの経済対策を打ち出している。EU でも、2020年5月に電池や半導体といった戦略的な重要物資のチョークポイントを分析し、特定国への依存を低減させ自立化を図る「2020産業戦略アップデート」を公表する一方で、2019年7月に打ち出された「EU 復興パッケージ」では、イノベーション支援やグリーン・デジタルへの移行などのために、合計で約 1.8 兆ユーロの予算を計上している。

 こうしたなかで日本は、為替が円安水準にあることや新興国での人件費高騰、経済安全保障への意識の強まりなどにより、国内回帰を決断しやすい環境である。こうしたことからすれば、政府は気候変動対策や経済安保、格差是正等の将来の社会・経済課題解決に向けてカギとなる技術分野や戦略的な重要物資、規制・制度等に着目し、国内の強みへの投資を促す支援策の継続が必要となるだろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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