年間にシリーズ累計3億本(2021年度)を売り上げる“国民的アイス”として知られる、井村屋グループ「あずきバー」の全米進出が話題になっている。8月4日に放送されたテレビ東京系『ガイアの夜明け』で海外担当スタッフが売り込みに奮闘している姿が取り上げられ、食文化の違いに苦心している状況が明かされた。あずきバーのアメリカ進出に勝算はあるのか、経営のプロに見解を聞いた。
あずきバーは発売50周年を迎えた定番の人気商品。井村屋は2009年に米国での拠点となる「IMURAYA USA」をカリフォルニア州に設立するなどし、あずきバーのアメリカでの売上を拡大させてきたが、現時点での販路は日系のスーパーが中心で、本当の意味でアメリカ人に受け入れられたとはいえない状況のようだ。
番組では、海外貿易担当スタッフが現地のスーパーにあずきバーを売り込むも反応が鈍く、道行く人に試食してもらっても「豆が入っているので第一印象からダメ」「豆が入ってなかったら食べたいけど」といった否定的な意見が上がる場面が流れた。アメリカでは、豆というと塩やスパイスで煮ておかずにするという認識が強く、食文化的に「甘い豆」が理解されにくいのだという。
だが、アメリカは「一人当たりのアイスクリームの年間消費量が日本人の約2倍」というアイス大国で市場としては魅力的。何とか販路を拡大したい井村屋側は、スーパーの売り場担当者らが健康の観点からあずきバーの原材料(あずき、砂糖、塩、水あめ、コーンスターチ)のシンプルさを評価していたことに着目。あずきの粒を全体に行き渡らせる役目のあるコーンスターチを抜き、あずきパウダーで代用することで、より原料をシンプルにする戦略を進めていた。
はたして、あずきバーは全米での販売を拡大させていくことができるのか。経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏に見解を聞いた。
「僕もあずきバーは大好きですが、アメリカのアイスとは大きく違うので、そのままだと苦戦するのではないでしょうか。現地の文化に合わせて製品の中身を変えないと、勝算はなかなか見えないでしょう。海外進出した過去の例を考えると、有名なケースとして日清食品のカップヌードルがあります。1973年にアメリカ進出した当時は現地でラーメンそのものが知られておらず、どんな食べ物か分からないのでまったく売れませんでした。そこで、カップヌードルの麺を短くし、具材も変えて『スープ』として売り出したところ、ヒット商品になりました。それ以降も、日本の食べ物が海外に進出した時は現地に合わせたアレンジが成功のカギになっています」(鈴木氏)
鈴木氏は経営戦略のプロの視点から、あずきバーの「アメリカでの売り方」についてこのように指摘する。
「アメリカは健康を気にする人が増えているので、原料のシンプルさや低カロリーといった健康志向をアピールする戦略は非常にいいと思うのですが、それだけで売るにはあずきバーという商品は個性が強すぎる。最大の個性といえるのが『硬さ』ですが、ほとんどのアメリカ人は硬く凍ったアイスを食べる習慣がありません。かき氷は食べるのであずきのかき氷にすれば売れるかもしれませんが、それではスーパーなどに置くのは難しいでしょう。となると、あずき入りのアイスクリームにするなど、硬さを捨てて柔らかいアイスに寄せていくべきではないでしょうか」(同)
硬くなくなったら、あずきバーのアイデンティティが失われてしまいそうだが、そのくらいの大きな変化を覚悟しないと海外進出は難しいという。
「例としては寿司が分かりやすいのですが、アメリカなど外国へ行くと日本では考えられないような寿司がたくさんあります。有名どころでは、カリフォルニアロールなどがそうですね。また、アメリカなどのスーパーでは、緑茶が当たり前のように売っていますが、日本と違って甘くなっています。日本でも缶入りの紅茶は甘いのが基本ですが、アメリカだと『お茶=すべて甘い』という認識なので緑茶まで甘いんです。寿司にしても緑茶にしても当初はまったく受け入れられませんでしたが、現地向けにアレンジすることで徐々に浸透していった。逆に、日本でも海外の食品や料理を大きくアレンジしていますからね。最近は和牛や日本酒なども海外でブームになっていますが、どれだけ現地のニーズに合わせて変化を許容できるのかが、海外で成功するための重要なポイントです」(同)
少子化や食生活の変化で国内消費が低迷している食品は多く、円安の影響もあって海外進出に活路を見出そうとするメーカーは今後さらに増えそうだが、変化を恐れないことが成功のカギになるようだ。
(取材・文=佐藤勇馬、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)