東レが11月8日に発表した2013年4-9月期の中間連結決算は、売上高が前年同期比13.3%増の8537億円、営業利益が同20.7%増の442億円で増収増益となった。純利益も同46.8%増の293億円と大幅に増えた。
営業利益が最も伸びたのは炭素繊維事業で、前年同期比約70%増だった。化学繊維事業も「ヒートテック」など衣料向け高機能繊維が好調で、前年同期比約30%増だった。このため、同社は14年3月期の通期連結決算予想を「当初通り」と据え置き、純利益は13年3月期比34.1%増の650億円を見込んでいる。これで純利益は2期ぶりの過去最高益更新がほぼ確実となった。
そんな中、同社が今年の9月27日に発表した、海外メーカー2社の大型買収が「東レも自前主義との決別か」と、業界で騒がれたのが記憶に新しい。M&Aに頼らず、「開発も製造も自前」を貫く経営で成長してきた同社にとって、初の大型買収だったからだ。
業界関係者を騒然とさせた大型買収発表は、次のような内容だった。
まず、米国の炭素繊維大手・ゾルテック(ゾル)を約570億円で買収。併せて、韓国の水処理膜大手・ウンジンケミカル(ウン)の買収でも優先交渉権を獲得したと発表。同社の買収額は明かされていないが、約400億円と推測されている。2社合わせて1000億円近い買い物となり、加えて「いわく因縁つきの案件」(繊維業界関係者)とあっては、業界内がざわつくのは当然だった。
●買収の目的
まずは、この2社買収の目的を見てみよう。
ゾルは炭素繊維の世界シェア3位で、「ラージトウ」と呼ばれる低価格汎用の炭素繊維が主力。同社製品は、主に風力発電機の羽根材やプラスチックの強化材として利用されている。同社を買収する東レは炭素繊維の世界首位メーカーで、「レギュラートウ」と呼ばれる高機能・高品質の炭素繊維が主力。主に米ボーイング社の旅客機の構造材や天然ガス運搬用圧力容器材などに利用されている。
炭素繊維市場におけるゾル買収後の東レの世界シェアは単純合算で31.7%となり、現在2位でシェア13.9%の東邦テナックス(帝人子会社)を大きく引き離し、圧倒的な競争力を確保することになる。同時に、汎用品から高機能品まで揃えた初の「炭素繊維総合メーカー」にもなる。東レはゾル買収の理由について「高機能品と汎用品の両面から事業展開を図ることで、新たな成長機会を獲得するのが目的」と説明している。
一方、ウンも水処理膜の世界大手ながら、主力は低価格汎用品。主に家庭用浄水器の水処理膜として利用されている。対して、水処理膜で世界シェア25%程度と推測されている東レの主力は高機能品。主に海水淡水化や下水処理の大型水処理設備で利用されている。水処理膜市場におけるウン買収後の東レの世界シェアは、これも単純合算で30%弱に達すると見られ、30%強と見られる世界首位のダウ・ケミカル社と対抗できる規模になる。ウン買収理由もゾルの場合とほぼ同じだ。