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データ入力で時給1500円→面接で「今は軽作業のみ」…釣り求人、蔓延の理由

文=A4studio、協力=指宿昭一/暁法律事務所代表・弁護士
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「gettyimages」より

 ある派遣会社の求人情報をめぐって、少し前にX(旧Twitter)上でこんなポストに共感が集まっていた。「データ入力で時給1500円」という求人情報を見て面接に行ったところ、「今あるのは軽作業だけです」と告げられたという内容で、投稿者は「これマジで法規制しろなのだ 時間も金も無駄なのだ」と憤慨している。同様の事例としては、「“平日勤務のみでもOK”と掲載されていたのに、実際は土日勤務が必須だった」というコメントもみられ、こういった「釣り求人」は多くはびこっているのが現実だ。

「釣り求人」は規制するべきという声が以前から多いが、なぜ今でも被害が絶えないのだろうか。なくならない背景や、注意すべき求人の特徴などについて、多くの労働事件で労働者側の代理人を務めてきた暁法律事務所代表・指宿昭一弁護士に解説してもらった。

派遣会社が「釣り求人」をやめない理由

 まず、派遣会社が「釣り求人」を出す目的は何か。

「理由は主に2つ推察できます。一つ目は登録するスタッフを増やすことで会社としての知名度や信頼を得たいということ。二つ目は人気のない案件の求人枠をなんとか埋めたいということ。時給が高い人気職の案件をネットの求人情報サイトなどで宣伝することで、新規登録するスタッフを増やし、宣伝していた求人条件よりも悪い条件の案件を紹介するという流れで、まさに『釣り』をしているわけです」(指宿氏)

 被害者は現在でも多くいるわけだが、なぜこうした「釣り求人」がなくならないのかが気になるところ。求人情報サイトに掲載されていた条件とは異なる内容だった場合、違法とならないのだろうか。

「実際の作業内容や就業条件と異なる内容を掲載することは違法行為に当たります。これは2022年に改正された職業安定法の第5条の4第2項に明示されており、掲載する求人条件を正確かつ最新の内容に保たなければいけないということが規定されているのです。よって、もうすでに募集していない過去の求人を長らく掲載し続けることや、作業内容とは違う条件の求人を掲載するといった『釣り求人』は違法となっています」(同)

違法行為でも言い逃れできる余地が多い

 違法であれば摘発されることもあるだろうが、なぜ派遣会社は「釣り求人」を続けることができるのかが不可解である。

「実は、先ほど述べた法律の第5条の4第2項『求人情報を正確かつ最新の内容に保つ』ということについて、罰則規定が設けられていないのです。ただ、同法律の65条の9号には、虚偽の広告や虚偽の条件を提示して労働者の募集をした場合、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金を科せられるという罰則があります。しかし、この罰則規定を適用することがなかなか難しく、派遣会社側が言い逃れできてしまうのです。例えば、虚偽の求人広告を載せていたとしても、派遣会社が『本当にあった求人だが、ついこの間、採用枠が埋まってしまった』などと言い訳すれば、たいていの場合はそれ以上の調査ができません」(同)

 ほかにも、派遣会社側が「求人情報の条件とは異なるが、契約時に労働者と派遣先企業が合意のうえで条件を変更した」と言い逃れするケースもあるというが、こちらは追及の余地があるそうだ。

「派遣会社がそのように言ってきた場合、募集時の条件が契約締結前に変更されたことを証明する書面を交付することが法律で義務付けられています。ですから、派遣会社がそう言い訳してきた際には、証明書を提示してくださいと追及するといいでしょう」(同)

 またX上では、求人情報に「女性大歓迎!」などと記載されていた場合、実質的に男性は対象外になっている場合があるといった指摘もあった。

「職業安定法の3条では、職業紹介などにおいて性別、人種、国籍、信条、社会的身分などを理由に差別的な取扱を行ってはいけないという規定があります。ですから『女性限定』『日本人募集』といった条件にするのは違法となるのです。そのため、実際は女性しか採用するつもりがない場合などは、『女性大歓迎!』のような表現にして募集をかけるという“裏”があります。こちらも『性別で判断しているのではなく、あくまで総合判断の結果』というような言い逃れをされると、追及ができなくなってしまうのです」(同)

「釣り求人」に騙されないためのポイント

 では、どうすれば「釣り求人」を見抜けるのか。

「まず、あまりにも良すぎる条件は疑ってかかるぐらいがいいでしょう。もちろん本当に条件のいい求人情報もありますが、そういった案件は早期で埋まることが多いので、長い期間ずっと掲載されている場合はかなり不自然です。また、同じ派遣会社から似たような好条件の求人が多く並んでいる場合も、『釣り求人』の可能性があるので注意してください」(同)

――いずれにしても、過去に何度も改正されている求人にまつわる法規制だが、まだまだ抜け穴があり、法が追い付いていない部分もあるということのようだ。

(文=A4studio、協力=指宿昭一/暁法律事務所代表・弁護士)

指宿昭一/暁法律事務所代表・弁護士

指宿昭一/暁法律事務所代表・弁護士

1961年神奈川県生まれ。1985年に筑波大学比較文化学類を卒業し、2007年に弁護士登録。主に労働者側に立った労働問題、外国人の入管問題、外国人技能実習生の人権問題などに取り組んでいる。近著に『使い捨て外国人―人権なき移民国家、日本』(朝陽会、2020年)など。2021年、米国務省から「人身売買と闘うヒーロー」に選出される。日本労働弁護団常任幹事、外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表、外国人労働者弁護団代表。日本労働評議会、全国一般東京ゼネラルユニオン顧問。
暁法律事務所のHP

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