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スーパー店長から市役所職員に転職したら地獄…地方公務員、なぜ不人気の職業に

文=Business Journal編集部、協力=中野雅至/神戸学院大学教授
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「gettyimages」より

 スーパーの店長から市役所職員に転職したという人が、SNSに「年収が450万円に下がった」「サービス残業が多い」「有給休暇を取りにくい」「仕事がつまらない」などと投稿し、一部で話題を呼んでいる。投稿内容の当否はともかく、地方公務員には、地元では給与水準が高く、残業代もきちんと支払われ、有給休暇も民間企業に比べて取得しやすいなど処遇に恵まれているイメージがあるのではないだろうか。

 確かに給与水準は高い。総務省の「令和4年度地方公務員給与の実態」によると、地方公務員(一般行政職)の平均年収は約637万円。民間企業の平均年収458万円(令和4年度・国税庁調査)に比べて約179万円高い。地元に本社を置く事業体のなかでは、銀行、新聞社、テレビ局、電力会社などに準ずる水準だろう。

 行政学が専門の神戸学院大学・中野雅至教授は、地方公務員の処遇をどう見ているのだろうか。中野氏は大和郡山市職員を経て労働省(当時)に入省し、新潟県庁総合政策部情報政策課課長などを務めたキャリアを持つ。

「もともと地方には雇用の場が少ないので地方公務員は良い就職先で、Uターンしてくる人にとっても地方公務員は人気の高い就職先である。地方に行けば行くほど、社会的地位、身分保証、給与水準の3つが揃っている職業は公務員しかなく、しかも市町村職員は県庁職員と違って単身赴任が少ない。身分保障は国家公務員法や地方公務員法に定められているので安定志向の人にとっては魅力だ」

 昭和の時代から振り返ると、公務員の就職人気は民間企業の雇用情勢と大きく関係してきた。民間企業の雇用情勢が悪化すれば公務員人気が高まり、逆なら人気が低下してきた。現状は、2012年に始動したアベノミクスによる景気拡大に、少子高齢化にともなう労働人口の減少が加わって、民間企業の人手不足が慢性化している。中野氏は次のように説明する。

「最近は景気情勢というよりも人手不足が影響しているのか、公務員採用の環境が変化して、人事院のデータを見ても国家公務員の受験者が減っている。さまざまな理由が考えられるが、優秀な学生にとっては民間企業の労働条件の改善が大きい。民間企業は人手不足が続くなかで、第一生命保険が今年4月入社の初任給を32万円に引き上げるなど給与水準が上がっているが、公務員の給料は人事院勧告に基づいて国会審議を経るので簡単には上がらない。ところが今は奨学金を抱えている学生が多く、卒業後に返済していかなければならない。仮に私立大学の平均授業料を年間100万円とするなら卒業時に400万円の返済は重くのしかかる。そうなると金銭的なことを視野に入れざるを得ず、結果的に、民間企業(特に大企業)に比べて公務員の給料は安いように映る」

理工系の学生にとって地方公務員は眼中にない?

 民間企業のなかでも給与水準が飛躍的にアップしているのはAIを中心とするIT人材である。理工系の学生は民間にどんどん流れ、1月15日付け毎日新聞によると、同紙が実施したアンケート調査で、23年度の47都道府県の採用試験で土木や獣医など技術・専門職の採用予定数割れが起きたという。

「IT企業がAI人材に対して高額の初任給を用意するケースも出ているが、ここまで高い賃金が用意されると、少なくとも理工系の学生にとって地方公務員は眼中にないと思う。しかも理工系出身の職員は役所であまり出世しないので、地方公務員を目指す学生は少ないと思う」(中野氏)

 それだけではない。会社員と公務員の最も大きな違いである身分保障でも、公務員の優位性が揺らいでいる。要因は転職市場の拡大だ。

「人手不足なうえに労働市場が流動化して転職がきくようになっているので、身分保障が重みを持たなくなった。さらにネットへの書き込みなどで以前から分かっていたことだが、公務員の職場環境がブラックであることも明らかにされている。また、大震災が発生すれば地方公務員が真っ先に現場に駆けつけて対応に奔走している実態を報道で見て、簡単な仕事ではないと分かるようになった。こうして、冷静に考えて地方公務員になることは釣り合わないと考える学生が増えている」(中野氏)

地方公務員のやりがい

 地方公務員の志願者数が低迷している背景のひとつに、災害対応のような例を別とすれば、いまひとつ仕事が見えにくいことも挙げられよう。傍目には「お役所仕事=ルーティンワーク」というイメージがあるかもしれないが、地域課題は変動的で、多くの地方公務員は使命感をもって課題に向き合い、住民の生活向上に励んでいる。地方公務員の仕事は何にやりがいを見出せるのだろうか。実体験を持つ中野氏はこう語る。

「私が学生に伝えるのは地域活性化などです。今は公務員が机の上で判子を押している時代ではなく、地域おこしでは公務員が中心になって、いろいろな人に働きかけて仕組みをつくっていく。そして地域が動いていく実感を持てる楽しい仕事で、ある政策をつくれば救われる住民もいるし、元気になれる住民もいて、公務員というのは多くの人に喜んでもらえる職業だと話している。社会問題に関心の高い学生にとっては良い就職先だと思う」

 社会問題に関心の高い学生は処遇よりも仕事本位で職場を選ぶ傾向が強いが、この傾向は学生全般に広がりつつあるという。学業成績の優れた学生でも一流企業や中央省庁を選ばず、ベンチャー企業に就職したり、起業したりすることが珍しくなくなった。その意味で、地方公務員の仕事をもっとリアルにPRすることが求められるが、もうひとつ、中野氏はキーワードに「成長」を挙げる。

「民間企業は入社すればどんな能力が身について、どんな成長ができるかを説明するが、公務員の場合は、身分保障があるので黙っていても就職してくれるだろうと胡坐をかいている傾向がある」

 時折メディアで話題になるような地方のスーパー公務員がロールモデルとして相次いでクローズアップされれば、地方公務員は「成長できる職業」と認識されるのではないだろうか。
(文=Business Journal編集部、協力=中野雅至/神戸学院大学教授)

中野雅至/神戸学院大学教授

中野雅至/神戸学院大学教授

1964年 奈良県生まれ。1990年に旧労働省に入省。
人事院長期在外研究員制度でミシガン大学公共政策大学院修了、新潟大学大学院現代社会文化研究科修了。経済学博士。
旧厚生省生活衛生局指導課課長補佐、新潟県総合政策部情報政策課長、厚生労働省大臣官房国際課課長補佐などを経て公募により兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科・助教授、その後、同大学院教授。
2014年4月から神戸学院大学現代社会学部教授。
神戸学院大学 現代社会学部 現代社会学科

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