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デジタル化が公務員の不祥事隠蔽に利用されている…逆に行政サービスのアナログ化も

文=明石昇二郎/ルポライター
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デジタル庁のHPより

マイナンバーカードでアナログな行政サービスへと逆戻り

 鳴り物入りで始まった「デジタル庁」だが、国民目線から見て、同庁がいったい何をやりたいのか、わからない。同庁のホームページによれば、デジタル庁はデジタル社会形成の司令塔として、他国に比べて大きく遅れをとっている日本のデジタルインフラを、今後5年間で整備し、「徹底的な国民目線でのサービス創出やデータ資源の利活用、社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション。デジタルによる変容)の推進を通じ、全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現すべく、取組を進めて」(カッコ内は筆者の補足)いくのだという。

 そんな同庁が自らに課したミッション(任務)は、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」である。しかし、誰一人取り残されないことなど、本当に達成できるのか。全ての国民にとっての「デジタル化の恩恵」とは、平たく言えば「今よりもずっと便利になること」に尽きる。「国民目線」から見て、以前より不便になったと感じる国民がいるなら、それはお仕着せ&思い上がりの“恩恵”でしかない。「国民目線」から見て、かえって迷惑だったりもする。その最たる例が「マイナンバーカード」事業だろう。

 今年4月1日現在のマイナンバーカード交付枚数は5487万枚で、交付率は43%。つごう2万円分の「マイナポイント」を大盤振る舞いしても、まだ人口の半分に達していない。問題は、マイナンバーカードを持っていない人(マイナンバーカード不保持者)に対する“仕打ち”が、陰湿であるうえに、社会のDX推進の流れにあからさまに逆行していることにあると、筆者は考えている。

 以前、当サイトでも指摘したことだが、「マイナンバー」制度が施行されてからというもの、行政サービスのなかには明らかに後退しているものが目につく。なかでも典型的なのが「住民票や印鑑登録証明書の交付」手続きだ。

 同制度以前は、印鑑登録カードや住基カードを使い、役所や支所、そして鉄道の駅などに設置されたデジタル発行端末で容易に住民票や印鑑登録証明書を入手することができた。だが、マイナンバーカードが登場して以降はそうした端末が一斉に撤去され、マイナンバーカード不保持者は役所の窓口まで出向き、紙の申請書に手書きで氏名等を記入し、混雑している時間帯であれば20~30分は待たないと入手できなくなった。

 もともとデジタルでやっていたものが、アナログな行政サービスへと逆戻りしているのだ。つまり、大変不便になった。なぜ、印鑑登録カードや住基カードで入手できていたのを、わざわざできなくしたのか。下々に喧嘩を売って無理矢理従わせるようなやり方は、「人に優しいデジタル化」というデジタル庁のミッションを真っ向から否定するものであり、頭が悪いとしか言いようがない。第一、撤去されたデジタルの発行端末が壮大な無駄(=ゴミ)になってしまったではないか。税金の使い方としても、いかがなものかと思う。本当に「国民目線」を徹底するのなら、マイナンバーカードでも印鑑登録カードや住基カードでも、住民票や印鑑登録証明書がデジタル端末で入手できるよう、今からでも改めることだ。デジタル庁に集うITのプロたちのスキルをもってすれば、大して難しいことではないだろう。

 行政サービスの基本は、紙での手続きも、デジタルでの手続きも、両方できることであるのは論を俟たない。サービスの利用者(国民・市民)にとって、より使い勝手が良いと思うほうを自由に選ぶことができるのが、国民一人ひとりの目線に立った「便利」なのである。それすら徹底できないようなら、「誰一人取り残されない」ミッションは間違いなく失敗する。

 しゃにむに「デジタル化」を突き進むのではなく、これまでの制度にデジタルのいい部分を加えていく「デジタル“加”」を目指すべきなのだと、筆者は思う。そうであれば、きっと誰一人取り残されることもなくなるだろう。

便利な機能がいっぺんに使えなくなる不便

 デジタルにすれば何でも解決するというわけではなく、デジタル化と同時に新たな悩みや心配事も生まれる。例えば、自然災害や原発の過酷事故といった災害時に、行政や民間のデジタルサービスが一斉に機能しなくなる――という事態である。こうした不具合は、すでに過去の大災害の発生時や大型台風の襲来時、大水害の際などに発生しており、決して空想次元の話ではない。デジタルサービスで必要不可欠なのは「電気」「電源」であり、そうしたインフラが根こそぎ使用不能になってしまうケースだ。でも、アナログが主流だった時代には、大して心配する必要がなかったことでもある。

 携帯電話の回線障害が発生すれば、買い物の際のスマホ(スマートフォン)決済ができなくなる。デジタル化の恩恵が、逆に「何も買えない」事態を招くのだ。DXを信奉した結果、現金を一切持ち歩かなくなっていた人などは、どうやって対処すればいいのだろう。同時に大規模停電が発生していれば、ATMでお金をおろすこともできなくなる。

 スマホにマイナンバーカードや運転免許証、健康保険証の機能が搭載されたとしても、回線障害によってスマホが使えなくなれば、途端に不便な生活を強いられる。スマホが壊れたり、トイレに水没させたり、バッテリー切れになったりした場合でも、同様の問題は発生する。対処不能に陥りたくなければ、デジタル庁が唱える「便利」を鵜呑みにせず、面倒であっても現金や運転免許証、健康保険証を常に持ち歩くほかない。甘く見ていると、免許不携帯で反則金を払わされたり、病院受診時に10割負担を強いられたりといった損をすることになる。デジタル庁がそうした損を補填してくれる可能性は、まずない。

 行政が持つさまざまな個人データが、サイバー攻撃のために流出する可能性や、改竄、捏造、消去されるといったケースも覚悟しておく必要がありそうだ。データ流出は何も国や自治体などの機関だけで起きるのではなく、ウイルス等で貴方のスマホが悪意ある者に乗っ取られた場合にも発生する。そうした危険に対し、私たち国民・市民は、デジタル庁を信頼し、任せておくだけで大丈夫なのか。そもそも、デジタル庁の対策は万全なのか。

 国から言われるまま、次々とスマホに証明書機能や決済機能等を移してしまうと、ある時、そのすべての機能がいっぺんに使えなくなってしまう――というリスクも一緒に抱え込むことになるのだ。そのリスクは、不便を通り越して恐怖でさえある。そのリスクを回避したければ、スマホには多くの機能を入れておかないことだ。本来であればデジタル庁は、そうした「万が一」の問題の周知にも努めるべきところだが、そうした気配はない。

悪用される「デジタル化」

 これまで触れてきたことで、「デジタル化」はいいこと尽くめ、というわけではないことを理解していただけたかと思う。この際、「デジタル化」したおかげで失敗した例もあることも、多少は知っておいたほうがいいだろう。

 2007年に発覚した、いわゆる「消えた年金」問題は、年金の加入記録をデジタル化する過程で発生していた。保険料を納付したにもかかわらず、国の社会保険庁(当時)に納付の記録がないケースがあることがわかったのである。単純な入力ミスや、結婚して姓(苗字)が変わった人の間で、この「消えた年金」問題は発生していた。

「デジタル化」が、行政の犯したミスを隠蔽するために悪用されているケースもある。2021年10月に東京都調布市で発生した、東京外郭環状道路(外環道)工事による道路陥没事故では、調布市に対して情報公開請求をした地元住民の個人情報(請求者の住所や氏名、電話番号が記載された情報公開請求書)が、あろうことか、事故を起こした当事者である国土交通省・東京外環国道事務所や、東日本高速道路(NEXCO東日本)、中日本高速道路(NEXCO中日本)などに対し、メールで転送される「個人情報漏洩事件」まで発生していた。

 内部告発によって発覚したこの事件では、調布市の担当職員によって、情報公開請求書が個人情報を隠さぬまま、国交省などに9回にわたってメール送信されていた。こうした請求の際、請求者の個人情報は、情報の開示を求められている当事者に対して伝える必要はないし、伝えてはならない性格のものだ。

 おまけに事件発覚後、調布市が問題のメールを確認しようとしたところ、削除されていたのだという。さらには、メールを受け取っていた国交省東京外環国道事務所でも、メールは削除済み。役所間のメールのやり取りなので、メールは公務に伴うものであり、紛うことなき「公文書」である。

 デジタル化以前のやり取りであれば、郵送かFAXで行なわれていたので、公文書管理法に基づき、文書の保存が義務付けられていた。実はメールも同様に保存義務が課せられているのだが、この事件ではこの義務が蔑ろにされていた。公文書管理法違反と個人情報保護法違反、さらには地方公務員法違反(守秘義務)の恐れもある。調布市職員に至っては、同市の個人情報保護条例違反にも問われるだろう。

 だが、今のところ、この個人情報漏洩事件による法律違反で刑に服した官僚や公務員は一人もいない模様で、調布市が担当課長ら3人を懲戒処分(戒告)にした程度。事件に関与した市職員は、外環道の担当からすでに外されているものの、東京新聞が報じたところによれば、同市としては「(削除された)メールの復元はしないとの方針が確定している」のだという。問題のメールを確認しようとしたところ、確認できなかったというのに、なぜだろう。

 その結果、「デジタル化」を悪用し、不祥事の証拠隠滅にまんまと成功している。このまま放置しておけば、「デジタル化」は公務員の不祥事隠蔽にこそ役立つ――と、広く認識されることだろう。

 同様の問題は、国交省や厚生労働省で発覚した国の基幹統計の「書き換え」(改竄)、「二重計上」不正問題でも発生しており、国交省では公文書管理法違反も確認されている。「デジタル化」が脱法の手段や責任逃れの言い訳に使われることをなくすには、どうすればいいのか。どうやらデジタル庁は、「デジタル化推進」の旗を振っていればいいわけでもなさそうだ。

 デジタル庁の「政策分野」の中には、「DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)」として、次のような記述がある。

「データがもたらす価値を最大限引き出すには、プライバシーやセキュリティ等への適切な対処により信頼を維持・構築することが、国境を越えた自由なデータ流通を促進することを可能にする」

 政府や自治体の「信頼を維持・構築する」ためにも、デジタル化を逆手に取り、悪用する輩の監視や取り締まりに精を出してもらいたいものだ。ただ、残念なことに、同庁の中には違法行為を摘発したり、取り締まったりする部署が見当たらない。一日も早く設置するべきだ。

「デジタル化」は必ずしも地球に優しいわけではない

「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を我が国で進めるためには、スマホの本体を買えない人や、スマホの電話代金、そして充電のための電気代さえ支払えない貧困層への配慮も必要だろう。でなければ、「全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会」を実現することなど、夢のまた夢であり、かけ声倒れに終わる。

「デジタル化」が進むにつれて、「テクハラ」(テクノロジーハラスメント)なる新語も登場している。スマホやパソコンの操作が苦手な人に対する、職場等でのパワハラなのだそうだ。「人に優しいデジタル化」を標榜するなら、こんなことへのきめ細かな配慮も求められる。さらに、である。

 言うまでもなくスマホやパソコンは、プラスチック製品の塊であり、その中では貴金属やレアメタルも使われている。移動通信システムの規格が4G(第4世代)から5G(第5世代)へと変わったり、携帯電話会社のサービスが終了したりすれば、事実上使えなくなるので、数年ごとに買い替えなければならない。

 世界のスマホユーザー数(スマホ人口)は2021年の時点で、世界人口約80億人の半数に当たる40億人に達しているとの調査結果もある日本に限っても、スマホ人口は7000万人を超えているとされる。その皆さんが数年ごとにスマホを買い替えるとなると、その分だけプラスチックやレアメタルの消費量も増え、地球環境への負荷がうなぎ上りで増していくことが予想される。つまり「デジタル化」は、必ずしも地球に優しいわけではないのである。

 果たして、「SDGs」や「地球温暖化」を理由に、プラスチック製のスマホが木製や紙製のものに置き換わる日は来るのだろうか。それ以前に、「地球環境への優しさ」という観点で見るなら、データ管理は「デジタル化」するより紙の書類で管理するほうが、よほど地球に優しいかもしれない。

「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」への道のりは、かなり険しそうである。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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