昨年9月の自民党総裁選の公約に掲げられた、菅義偉首相“肝いり”の中央官庁、「デジタル庁」が1日、発足した。菅首相は先月31日の閣僚懇談会で「スマートフォン一つで役所に行かずともあらゆる手続きがオンラインでできる社会を目指して、システムの統一・標準化やマイナンバーカードの普及に取り組む」と同庁創設の意義を強調。1日にはインターネット上の正式窓口であるデジタル庁の公式サイトがオープンした。
目を見張るのは、そのシンプルなデザインとユーザインタフェース(UI)だ。ネット上では、“シンプル”かつ“軽い”デザインのサイトとしてよくネタにされている俳優の阿部寛氏のホームページ(下記)を引き合いに出して「阿部寛のホームページよりアッサリしている」などの声も聞かれた。
同庁によると、サイトのロゴは、オープンソース書体である「Noto Sans」を基本に、字間や太さなどをロゴとして扱いやすいよう調整したという。こうしたシンプルなデザインの根幹には同庁が掲げている「デジタル社会の実現に向けた重点計画」がある。同計画の「第2部 デジタル社会の形成に向けた基本的な施策の2.徹底したUI・UX の改善と国民向けサービスの実現」には次のような記載がある。
「②政府ウェブサイトの標準化・統一化
必要な情報に誰もが素早くアクセスできるように、各府省庁のウェブサイトのデザインやコンテンツ構成等の標準化・統一化を図る。令和3年(2021 年)秋までに、各府省庁のウェブサイトのデザイン原則案を策定し、今後設置予定のデジタル庁ウェブサイトにおいて当該原則案の検証を実施する」
デジタル庁が31日、文章・写真投稿サイト「note」の公式アカウントに公開した記事「デザインシステム勉強会を開催しました」でも、この点に触れ、次のように指摘している。
「現状、各省庁の Web サイトは個別に構築されており、各 Web サイトの情報構造や見た目がそれぞれ異なっています。
利用者にとっての使いやすさ・求める情報へのたどり着きやすさ、また開発の効率化・管理コスト削減の観点で改善の余地が大きいと考えています」
つまるところ、雑多を極めている各省庁の公式サイトなどの簡易化、デザインやUIの単一化を図る上で、デジタル庁の公式サイトは一つのひな型を示したということのようだ。
外務省OBがCFOの「note」も重用?アーカイブされない公文書
デジタル庁のサイトを、中央省庁の関係者はどう見ているのか。厚生労働省の関係者は次のように話す。
「ご覧の通り、うちのサイトは新型コロナウイルス感染症の対策に伴う省内の混沌とした状況を示すように戦場のような有様を呈しています。
『サイトに書かれている〇〇という部分のことを聞きたいのだが?』という問い合わせがあった際に、該当のページを探すにも一苦労な状況なので、シンプルであることは利用者のみならず、省内の人間にとってもありがたいとは思います。ただ各省のWebサイトのデザインやUIを統一する前に、他にも予算を使うことはあるとは思いますが……」
デジタル庁は公式サイト以外での情報発信を強める方針を示している。前述のnoteもその一つだ。ある中央省庁からWeb関連事業を受託している企業関係者は語る。
「ネット上ですでに指摘されていることですが、noteの記事はインターネットアーカイブに残りません。公的な組織が発表した内容が残らないというのは法律的にどうなのか、ということです。政治家のブログやtweetでもなく、組織として発表している記事なのに公文書ではないのかという疑問があります。
単なる妬みかもしれませんがnoteの最高財務責任者(CFO)の鹿島幸裕氏は外務省OBですし、官界とのパイプも強い会社です。今後、どこの企業が参画し、中央省庁のデジタル化が“統一”されていくのか非常に気になるところです」
自民党衆議院議員秘書は話す。
「デジタル庁の平井(卓也)長官も関係先企業との噂が絶えない人ではあり、衆院選を前にマスコミもいろいろ探ってくるのではないですか。デジタル庁のコンセプト自体は誤っていないものの、今後の行く末はどうなることやら。いずれにせよデジタル庁発足で、総理は『実績』を一つ作ったということだけは事実です。今後予定されている内閣改造や衆院選、総裁選で官庁としての骨格が揺らがなければいいのですが」
政権の未来が見通せない中での船出となったデジタル庁。果たして無事、目標を達成することはできるのだろうか。
(文=編集部)