22日発売の「週刊文春」(文藝春秋)は、トヨタ自動車の豊田章男会長が自身に異論を言う役員を次々と放逐していると報じている。記事内では現役取締役や元役員が実名で豊田会長に対して批判的なコメントをするなど異例の事態となっている。グループ企業である日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機で相次いで不正が発覚し揺れるトヨタで今、何が起きているのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
2023年4~12月期連結決算(国際会計基準)で営業利益が4兆2402億円と、日本企業で初めて4兆円を超え、24年3月期通期の純利益が前期比84%増の4兆5000億円と過去最高益を更新する見通しのトヨタ。そんな同社の異常ともいえる経営実態を伝えた今回の「文春」報道だが、なかでも注目されているのが、現役の社外取締役である菅原郁郎氏の発言だ。記事内で菅原氏は「文春」の取材に対し、豊田会長について次のように語っている。
「副社長を次々放逐したり、三人置くと言ったり。それで置いた人もまたいなくなって。章男さんに引き上げられた人ばかりで、素直に物を言う人がいなくなりました」
「取締役会で異論を言うのは僕くらい。だから、場が凍ります」
大企業の現役役員がここまで踏み込んだ発言をメディアを通じて行うのは異例だが、現役幹部のみならず、元幹部でも豊田会長に批判めいた発言をする人物はほぼいないという。自動車業界を取材するジャーナリスト・桜井遼氏はいう。
「外に飛ばされた元役員も、トヨタのグループ会社の役員クラスには就けている人が大半で、それなりのポジションと待遇は用意されている。もし豊田会長への批判的な言動が本体に伝われば、それこそ本当に『飛ばされて』しまうので、みんなその話題になると言葉を濁してしまう。
菅原氏は経済産業省の元事務次官なので、プロパー役員とは違って自由な身。以前から取締役会で豊田会長に忖度しない発言をして梯子を外されている状態が続いており、誰も話を聞いてくれないことに不満もあるようで、留任の意思はない様子だとみられている」
長期政権の弊害
豊田会長の「好き嫌い人事」は以前から知られていた。例えば18年1月1日付人事で、当時デンソー副会長だった小林耕士氏がトヨタに呼び戻されるかたちで副社長就任。「一度外に出た」人物が本体の役員に復帰するのはトヨタでは異例だが、小林氏は豊田会長の元上司であり社内では「いろいろな面で章男さんのお世話をしてきた」(前出・桜井氏)といわれている。その小林氏のCFO就任により、前任の永田理副社長(当時)は豊田会長に忖度なくモノを言うため退任に追い込まれたという見方が強かった。
このほか、17年に59歳の若さで副社長に就任した友山茂樹氏は、テレマティクスサービス「G-BOOK」の立ち上げなどで豊田氏と一緒に仕事をした経験もあることから2人は親密な関係といわれ、社内では「お友達」といわれていた。友山氏は一時はコネクティッドカンパニーとガズーレーシングカンパニーの2つの社内カンパニーのプレジデント、TPS本部、事業開発本部、情報システム本部の3つの本部長を務めるなど、重用されていた。前出・桜井氏はいう。
「豊田会長の自身への異論を一切許さない姿勢は社内では有名。17年にトヨタ専務だった牟田弘文氏が日野自動車の副社長に飛ばされ、日野のプロパー社員で同社専務からトヨタの常務に転じたばかりだった下義生氏が日野の社長に就任。当時これは懲罰人事だと話題になったが、原因は牟田氏が豊田会長の唱えたカンパニー制導入に反対したことだった。佐藤恒治氏が社長に引き上げられたのも(23年就任)、単に役員のなかで豊田会長にもっとも従順だったからで、いまだに豊田会長に呼び出されて叱責を受けているという。
ちなみに友山氏はいろいろあって現在は執行役員から外れ、完全に豊田会長から飼い殺しされている状態だが、今の経営体質に嫌気がさして優秀な社員の退職が目立つようになっている。特に開発部門や生産部門でこうした現象が続けば、確実にトヨタの競争力低下につながっていく。また、『上にモノがいえない風潮』『トヨタ本体にモノがいえない風潮』の弊害が積もり積もって一気に爆発したのが、グループ企業である日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機の不正発覚だ。それだけに問題の根は深い」
豊田氏はリーマンショックでトヨタが巨額赤字に陥った2009年に同社社長に就任。当初から専横的な経営を行っていたわけではないという。全国紙記者はいう。
「父で名誉会長だった豊田章一郎氏が、赤字の責任を取らせるかたちで当時社長だった渡辺捷昭を退任させ、半ば強引に章男氏を社長に据えたこともあり、『章男さんは創業家だから社長になれた』という冷ややかな空気が社内でも強かった。だがその後、重しになっていた副会長の渡辺氏が11年に、張富士夫会長が13年に退任。父・章一郎氏の影響力も減退し、さらに業績拡大という数字的な実績も積みあがっていくなかで、章男氏の権力は増長。徐々に自分に異見を言う役員を排除し、イエスマンだけで固めていくようになった。同じ人物が14年にもわたり社長に居座り続けた弊害といえる」
息子の豊田大輔氏による世襲
そんな豊田会長がこだわっているのが、息子の豊田大輔氏による世襲だとされる。前出・桜井氏はいう。
「トヨタは19年に常務役員、常務理事、基幹職1級・2級、技範級を一括りして『幹部職』というポストに集約。そして20年には副社長職を廃止し、社長の下の執行役員は全員、同格の立場となったが、背景には大輔氏が社長になるまでの距離をできるだけ短くするという狙いもあったといわれている。
将来の大輔氏の社長就任は規定路線であり、そのための実績をつくるために大輔氏はトヨタ子会社のウーブン・プラネット・ホールディングスシニア・バイス・プレジデント(上席副社長)、および同社子会社ウーブン・アルファの代表取締役に就いたが、結果は大失敗。ウーブン・アルファは多額の赤字となり、ウーブン・プラネットに吸収合併されるかたちで消滅した。大輔氏には負の実績しかなく、社内でビジネス的な手腕を評価する声はない」
トヨタの危機は、思わぬところで静かに進行しているのかもしれない。
(文=Business Journal編集部)