サイバーエージェント「2駅ルール」の目的が意外だった…離職率が低下?

サイバーエージェントが入居するAbema Towers(「Wikipedia」より/Akonnchiroll

 サイバーエージェントが社員への福利厚生施策として、勤務するオフィスの最寄り駅から2駅圏内に住んでいる社員に家賃補助を出す「2駅ルール」を設けていることは有名だが、実はその狙いが社員同士を仲良くさせて離職率を低く抑えることだったと同社社長の藤田晋氏が明かし、話題を呼んでいる。多くの業界で人手不足が深刻化するなか、企業は社員の離職を防ぐためにどのような取り組みを行っているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 インターネットテレビ局「ABEMA」やゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」などで知られる総合ネットサービス企業・サイバーエージェントは、福利厚生として一般的なものに加え、妊活休暇・妊活コンシェル・卵子凍結補助・認可外保育園補助・キッズデイ休暇などユニークな取り組みを行っている。なかでも創業間もない頃から2駅ルールを設けていることは有名。現在でも続いており、勤務しているオフィスの最寄り駅から各線2駅圏内に住んでいる正社員には月3万円、勤続年数が丸5年を経過した正社員に対してはどこに住んでいても月5万円の家賃補助が支給される。

 このルールの狙いについて同社の藤田社長が「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」(ダイヤモンド社/2015年12月号)に掲載されたインタビュー記事で次のように説明していることが、今になって一部ネット上で注目されている。

<社員同士を仲良くさせて離職率を下げようという狙いで『二駅ルール』という制度を制定しました>

 ちなみにサイバーエージェントの公式サイトによれば、2023年度の離職率は7.4%、平均勤続年数は5.5年、平均年齢は33.9歳。従業員の年代別構成比は、20代が35.3%、30代が43.9%、40代が18.8%、50代が1.9%となっており、“若い会社”といっていいだろう。

 元同社社員はいう。

「藤田社長がわざわざルールまで導入して離職率を下げようとしていたのは、まだ創業から数年で社員が少なくて辞められると困る時期の話でしょう。今はどうかはわかりませんが、私がいたころは同じフロアで毎週のように退職する社員がおり、面倒なので送別会なんかもあまり開かれていませんでしたが、社内には会社を辞めるということにマイナスのイメージを抱く空気はなく、転職は当たり前のことだったので、会社としても離職率を低下させようという発想はなかった気がします。他社から転職で入ってくる社員も多かったので出入りは激しかったですが、基本的には新しいサービスを次々と立ち上げることで利益をあげている会社なので、必然的にそうなるでしょう。また、退職者が多いからといって社内がギスギスしているということはなく、むしろ社員同士の仲は良く、風通しは良く、仕事はハードでしたが個人的には良い会社だったと思います」

インフォーマルネットワークの構築

 サイバーエージェントは二駅ルール以外にも、同じ市区町村に住むママ社員が集まるランチの費用を会社が補助する制度(4カ月に1回、一人当たり3000円を会社が負担)を福利厚生として設けており、社員同士の仲を良くさせようという意識が強いようにみえるが、人材研究所ディレクターの安藤健氏はいう。

「二駅ルールと同様の制度を導入しているベンチャー企業はありますが、大きな目的は、社員同士のインフォーマルネットワークの構築によって、縦(=部署内)と横(=部署間)の絆を強めてノウハウの共有を深めることです。特に入社したての社員は社内での人脈を持っておらず、人間関係がどうなっているのかも把握していないため、疑問点を質問する相手が見つかりにくく孤立しがちなので、そういった問題を解消するには二駅ルールのような制度は効果的になってきます。

 インフォーマルネットワーク構築のための施策としては、これ以外にも、メンターとのランチ代を会社が補助したり、同じ時期に中途入社した社員同士を『同期入社』と位置づけ、同期でのランチの費用を補助するといったケースもあります。

 もっとも、インフォーマルネットワーク構築のためにどのような施策が効果的かは、企業ごとの特性によって違ってきます。たとえば営業系の企業だとピザパーティーや運動会のように、みんなでワイワイと楽しむイベントが有効かもしれませんが、ITエンジニアが多い企業では専門的な勉強会を開催したほうが効果的となってくるかもしれません。個別企業ごとの社員のパーソナリティを考慮した施策が必要です」

今いる社員をいかに離職させないか

 多くの業界で人手不足が深刻化するなか、企業は社員の離職率を抑えるために、どのような施策を行っているのか。

「米グーグルの20%ルール、米3Mの15%ルールのように、業務時間のうちの一定時間を社員が自分の好きな研究に使ってよいという制度を導入している企業がありますが、社員の自律的キャリア開発を促すことで離職率を抑えるという点も期待される効果の一つにあります。評価制度を使う方法もあります。期末の特別賞与支給において、部署ごとの総額を明示して『この金額を自分以外の社員に分配すると仮定して金額を割り振ってください』として社員を相互に評価させ、その結果をもとに各社員への支給額を決めるというものです。このほか、社員の家族が職場を訪問するオフィスツアーやファミリーデイを設ける企業もあります。

 とにかく今は外から人を採用する難易度が非常に高くなっているため、社員の定着率を高めて今いる社員をいかに離職させないかということに、多くの企業が力を入れています」(安藤氏)

(文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所ディレクター)

安藤健/人材研究所ディレクター

青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2016年に人事・採用支援などを手掛ける「人材研究所」(東京・港)へ入社。2018年から現職。国内大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務や人事向けセミナーなどを手掛ける。毎月1回、組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』を企画・運営。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(ソシム)、『誰でも履修履歴と学び方から強みが見つかる あたらしい「自己分析」の教科書』(日本実業出版社)。
安藤 健 | 株式会社人材研究所

Twitter:@andoK_official

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