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見捨てられた老人ホーム…閉鎖1週間前に退去通知、職員は人手不足で素人ばかり

文=Business Journal編集部、協力=永嶋昌樹/東京都介護福祉士会会長
見捨てられた老人ホーム…閉鎖1週間前に退去通知、職員は人手不足で素人ばかりの画像1
「ドクターハウス ジャルダン」の運営会社オンジュワールの公式サイトより

 フジテレビ系報道番組『Live News イット!』が伝えている、「見捨てられた老人ホーム」問題。全国に複数展開されている住宅型有料老人ホーム「ドクターハウス ジャルダン」で給料未払いにより職員が一斉に退職し、運営会社の社長は雲隠れ状態となり、入居している高齢者が取り残されるという事態が発生。今月10日にはすべての施設が閉鎖されたが、『イット!』報道によれば、今月2月にオープンしたばかりの施設もあり、入居から6カ月で退去を強いられたり、施設閉鎖の1週間ほど前に退去するよう通知された入居者もいたという。専門家は、介護保険制度の開始以降、福祉と無関係の営利企業が多数、介護事業に参入するようになった弊害が出始めていると指摘する。また、背景には介護業界の深刻な人手不足で無資格者や未経験者、福祉に携わる者としての資質や意識が必ずしも高くない人材が増加していることもあるという。

「ドクターハウス ジャルダン」は株式会社オンジュワールが運営する住宅型有料老人ホームであり、東京都足立区の入谷、千葉市の寒川、横浜市の本郷台、福岡県北九州市の若戸に展開されている。若戸の施設は今年2月、寒川の施設は昨年12月、入谷の施設は昨年10月にオープンしたばかり。分類としては、介護保険の適用外である住宅型有料老人ホームにあたる。オープン当初から現在に至るまで赤字経営が続き、社員への給料未払いが発生。職員が一斉に退職し、入居者のオムツや布団が交換されずに汚れたまま放置され、入居者が数週間に1度ほどしか入浴できないなど、入居者への介護など施設運営が正常に行われない状態に陥った。一月当たりの入居者の死亡数は異常に多く、入居後1カ月で死亡する人もいた。そして突然、閉鎖が決まり、入居者は1週間以内に退去するよう告げられたという。

「ジャルダン」は入居費用が約8万円、月額費用が約10万円という低価格をウリに入居者を募集していたが、淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授はいう。

「介護付き有料老人ホームであれば、(入居に伴う一時金の)一般的な相場は200~300万円くらいなので、安すぎといえます。低価格をウリにたくさん入居者を集めて、職員を雇い、サービスもたくさんつけて介護報酬を得ようという、ある種の貧困ビジネス的なことを、福祉業界に精通しない事業者がやろうとしていたという印象を持ちます」(10月15日付当サイト記事より)

実務に理解がない経営陣が適切な対応をとれず

 ここ数年、介護保険の適用外である住宅型有料老人ホームは人員配置基準の面で参入のハードルが低いこともあり、運営に参入する営利企業が増加していると、東京都介護福祉士会会長の永嶋昌樹氏は指摘する。

「2000年の介護保険制度施行以前は、公金である措置費により運営され、原則として社会福祉法人のみが設置できる特別養護老人ホームが主たる介護施設でした。現在では社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームなどのほかに、営利企業が運営する有料老人ホームが非常に増えています。そうした企業のなかには、もともと福祉と無関係でノウハウがないまま参入し、介護の実務を知らない営業畑出身の人が施設長に就いているというケースもあります。現場の管理職やマネージャー層、その下の職員たちも多くが福祉・介護関係の資格所持者ではなく、実務も未経験の人たちばかりという施設もあります。

 介護保険が適用される社会福祉法人の施設であれば、法律で定められた基準を満たさなければならないため、たとえば職員の数が足りなくなればフロアの一部を一時的に閉鎖するなどして、運営に無理が生じない状況がつくられますが、介護保険の適用外である住宅型有料老人ホームなどの場合は、実務に理解がない経営陣が適切な対応をとれず、入居者へのサービス提供に支障が生じるということもあるでしょう」

誤ったマイナスのイメージが広がる

「ジャルダン」も慢性的な職員不足に陥っていたようだが、介護業界の人手不足は深刻だ。

「多くの施設で人手不足が進んだ結果、無資格者やパート感覚の人、他に仕事が見つからなかった人など、福祉的な志が希薄な人や専門職として養成していくのに適しているとは考えにくい人なども、従来に比べて採用されやすい状況にあります。機械的に人が足りないから、とにかく誰でもいいから入れざるを得ないというのは、本来の福祉のあり方としては適切とはいえないでしょう。

 また、派遣会社経由で入って来る人も、以前は介護職としての訓練を受けた経験者が派遣されてきましたが、現在では福祉・介護の資格や研修歴のない人が派遣されてくることも増え、そのようなことも一般的になりました。一部のモラルがない紹介会社にいたっては、紹介手数料を稼ぐために、ある施設に派遣した人に対して『もっと条件が良い施設が見つかりましたよ』と言って、短期間で引き上げさせるといったことまでやっていると、いくつかの施設関係者から聞いています」

 人手不足が進む要因としては、介護職というものに対するマイナスのイメージが間違ったかたちで広まっている点もあるという。

「よく介護職は賃金が安いといわれますが、何と比較してのことをいっているのかに注意すべきです。まず、介護職は男女比率としては女性のほうが多いということと、日本全体では女性の平均賃金は男性より低いという現実があります。女性は結婚や出産などを契機に職を離れるケースがあるため、男性と比べて昇給する機会が少ないことも影響していると考えられます。パートやアルバイトで雇用されている割合が高いこともあり、男性の正規職員が多い一般産業の昇給度合いや生涯賃金と比較して低いといっても、果たしてそのような比較自体が適切なのかは疑問です。

 また、入所施設の介護職には夜勤があり、夜勤手当なども支給されるため、一部の民間企業より給与が高いというケースもあります。そのような理由から、一概に介護職が低賃金であるとはいえません。

 また、高校生などが介護の仕事に就きたいと希望しても、学校の進路指導担当者や親から反対されるケースが少なからずあるようです。今後、日本ではますます高齢者が増加していき、そこで働く人材が今以上に必要になっていくにもかかわらず、介護の仕事に高い意欲を持つ若者の進路を閉ざすというのは問題があると感じます」(永嶋氏)

 厚生労働省によれば、22年度の介護職員数は約215万人で、26年度時点の必要数は約240万人と試算しており、約25万人増やす必要がある。40年度には約272万人が必要になり、約1.3倍に増やす必要がある。

行政の監督責任を問う限界

 介護施設の経営は自治体による指導監督のもとで行われており、「ジャルダン」のような事態が生じると行政の監督責任を問う声が出る。

「介護施設の事故や不祥事が出ると、よく『行政は何をやっていたのか』という批判がなされますが、東京都内だけで介護老人福祉施設は580以上、介護老人保健施設は200以上もあり、有料老人ホームを含めるとその数はさらに膨大です。これを都や介護保険の保険者である市町村がすべてを回って細かく監督・指導することは困難です。また、問題が出るたびに規制を強化したからといって、要介護高齢者の増加と介護の担い手不足といった本質的な問題が解決されるわけではありません。要介護状態となった高齢者は施設に入所すれば何とかなるというような考え方も、根本的に考え直す必要があるのではないでしょうか」

 特別養護老人ホームなどの諸経費の大半は介護保険が適用され、介護報酬で賄われる。入居者の自己負担は1~3割、残りが介護保険料と自治体(国・都道府県・市町村)による拠出。介護報酬はサービスごとに定められた人件費率や地域区分の上乗せ割合などで決まるため、介護施設が自由に決められるものではない。収入としては介護報酬のほか、各種補助金・助成金がある。住宅型有料老人ホームは施設自体の費用には介護保険は適用されないが、入居者が外部の介護事業者と契約をして介護サービスを利用した際には介護保険を利用できるため、住宅型有料老人ホームが訪問介護事業所を併設し、そこからヘルパーが派遣されるかたちで事実上の一体経営が行われているケースも多い。

 介護施設の経営は厳しい。厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」によれば、介護施設・事業所の2022年度の平均収支差率(利益率)は介護サービス全体が2.4%であり、介護老人福祉施設はマイナス1.0%、介護老人保健施設はマイナス1.1%と赤字。介護事業者の倒産も増えている。東京商工リサーチの調べによれば、2024年上半期(1-6月)の介護事業者(老人福祉・介護事業)は前年同期比50.0%増の81件となっており、介護保険法が施行された2000年以降で最多となった。

(文=Business Journal編集部、協力=永嶋昌樹/東京都介護福祉士会会長)

永嶋昌樹/東京都介護福祉士会会長、日本社会事業大学社会福祉学部 准教授

永嶋昌樹/東京都介護福祉士会会長、日本社会事業大学社会福祉学部 准教授

略歴:社会福祉事業団に就職後、特別養護老人ホーム介護職員、在宅介護支援センター相談員・介護支援専門員(ケアマネジャー)など約12年間の現場実務を経て、大学の専任教員として福祉専門職養成に携わる。
学位資格:博士(社会福祉学)、介護福祉士、社会福祉士
社会活動:公益社団法人東京都介護福祉士会会長、東京都介護現場革新会議委員長、東京都高齢者保健福祉施策推進委員会委員など
東京都介護福祉士会の公式サイト

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