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キョードー大阪が見解「誠実に対応しました」ライブ問題…声明発表が難しい事案

2025.03.20 2025.03.21 22:19 企業
キョードー大阪が見解「誠実に対応しました」ライブ問題…声明発表が難しい事案の画像1
「Unsplash」より

 今月に「なんばHatch」で開催された5人組ロックバンド「礼賛」のライブ中に犯罪行為があったと観客がSNS上で指摘していた問題で、運営会社であるキョードー大阪は19日、「3月16日(日)礼賛公演中の事実確認と対応についてご報告」と題する声明を発表。そのなかで

「被害を申告された方によるXへの投稿内容に事実との相違があることを、投稿時より確認しておりました」

「しかし、礼賛のファンであることや個人の発信であることを考慮し、静観しておりました」

「コンサート運営会社として誠実に対応いたしました」

「終演後、第三者の目撃者(お客様)に任意でご協力頂き、警察立ち合いのもとで痴漢行為と疑われる事象は認められないという証言が提示されました」

と説明。加えて、被害の申告者の文面を引用しながら、その主張の一部について「当該発言はなかった」「事実は一切なし」と否定。「お客様同士のトラブルは当事者間での解決が原則とされています」「第5条(入場者間のトラブル) 主催者は、公演会場内における入場者間のトラブルについては一切責任を負いません」と記載し、さまざまな声が寄せられる事態となっている。イベント運営会社関係者は「なんらかの声明を発表する必要に迫られるなかで、対応が非常に難しいケースであることは事実」というが、こうしたケースでは危機管理対応としてはどのような方法をとるべきなのか。専門家の見解を交えて考察してみたい。

 老舗のイベント興行会社として知られ、年間3600以上のステージを手がけ、年間観客動員数は880万人を超えるとされるキョードーグループ。そのなかで主に関西圏で音楽コンサート・ライブなどを企画・制作・運営・チケット販売するキョードー関西グループの中核企業がキョードー大阪だ。

被害の申告者とキョードー大阪の主張

 問題が起きたのは今月16日の公演。被害の申告者はライブ中に同伴していた夫を介してライブスタッフに被害を訴えるメモを渡し、キョードー大阪スタッフはロビーで被害を加えたとされる男性に会場外で事実確認を行い、警備員の監視のもとで男性をいったん会場内に戻したという。その後、会場外で当事者同士(申告者と男性)が話し合いを実施。申告者はSNS上で、警察を呼びたいと申し入れたがスタッフに止められたと説明しているが、キョードー大阪はリリースで「警察への連絡を抑止した事実は一切なし。『当人同士での話し合いで解決不可能な場合、ご自身の言葉で110番通報してください』とキョードー大阪スタッフが助言した」と主張している。

 また、申告者が、個室で警察と話している途中でスタッフが入ってきたため十分に話せなかったと記述している点について、キョードー大阪は「キョードー大阪スタッフが、女性の同行者(夫)に名刺を渡すため入室した。名刺を渡した目的は、チケットの返金対応および、落ち着いた後に改めて状況を報告してもらうため」と説明している。

 ちなみに男性に最初に事実確認のために話を聞いた後に、いったん会場内に男性を戻した点についてキョードー大阪はリリース内で「男性は場外で待機していただくべきでした。(女性に)不安に感じさせる対応をとってしまい、誠に申し訳ございませんでした」と謝罪している。

会社側の考え方

 申告者の投稿がSNS上で拡散されキョードー大阪に対するさまざまな声が上がるなか、企業としてなんらかの対応・説明を行わなければならない状況だったともいえるが、あくまで一般的な話として、今回のようなケースでは、どのような対応を取るべきなのか。危機管理・広報コンサルタントで、長年、企業・自治体の管理職向けに模擬緊急記者会見トレーニングや危機管理広報、SNSリスク対策研修・セミナーの講師なども手掛けてきた平能哲也氏はいう。

「まず前提として、今回の事案について事実関係を私がコメントできる立場にはないため、あくまで一般論としてお話しします。運営会社としてはSNS投稿がネット上で拡散され、会社に対する批判が高まるなかで、なんらかの声明を出す必要があったともいえます。また、もし仮に同社スタッフの証言とされる内容に事実と異なる内容がある場合、何らかの説明をすべきであったともいえるかもしれません。

 各当事者の主張について、事実であるかどうかの調査は警察の仕事であり、事実関係について会社側が何らかの意見、もしくは意見と受け取られることを述べるのは適切ではありません。よって、『当社は警察の捜査に全面的に協力いたしました。今後もそのような対応をしてまいります』という書き方にとどめるのが一般的です。また、文の最後にある『なお、SNS上で誤った事実を記載・拡散することは』は、断定的な主張と誤解される『誤った事実』ではなく、『真偽不明の事実』という表現を使うべきでしょう。

 また、危機管理広報の観点では、相手の感情を害する(特に相手が怒りの感情を強める)、逆なでするような対応は避けるのが基本であり、被害申告者が3月17日にXに投稿した内容について一つずつ(以下、補足説明)として反論するのは避けるべきでした。例えば『当社がスタッフに聞き取り調査をした結果、次のような発言はなかったと確認しております』として、キョードー大阪スタッフの発言として記述されている中で否定するものを簡潔に箇条書きで記述すれば良かったでしょう。

 こうした事案に関する報告のリリースでは、当日の対応内容を表として時系列にまとめておくことも重要です。今回のケースでいえば、ライブのスタート時間、被害の申告がスタッフに伝わった時間、警察が到着した時間、その後の対応が行われた時間などを客観的な事実として記述。そこに意見や主張は一切入れないようにします。もし時間の記録をとっていなければ、対応順に時系列で記載するという形になります。事実関係が不明なことを、読んだ人に客観的に理解してもらうためには、時系列での記述が必須です。そのため、企業は従業員(今回のケースでは運営スタッフ)に対し、突発的な事件、事故や何らかのトラブル対応の際には、冷静に対応した時間をメモするようにマニュアル化して指導しておくべきです」

 イベント運営会社関係者はいう。

「対応が非常に難しい事案です。被害を申告している一般人の方の主張について、事細かく否定をするというのは基本的には避けるべき行為ということになりますが、もし仮にきちんとスタッフにヒヤリングをした上で事実と異なる内容があることが確認されれば、会社として否定をしておくべきという考え方もあるでしょう。特にキョードー大阪のように多くの興行を扱っている会社の場合、ステークホルダーも多く、他のイベントへの影響や信頼性ということも考慮しなければならないので、謝罪すべき点は謝罪しつつ、広がっている情報に事実ではない点があれば否定も含めて説明をすべきだという考え方も理解はできます。とはいえ、被害を申告している一般人の方の発言を一つひとつ挙げて否定するという行為は、かえって企業イメージを悪い方向に誘導してしまうリスクもあり、またモラル的にどうなのかという問題もあるので、適切といえるのかどうかは難しいところです。対応に落ち度があった部分は謝罪しつつ、事案としてすでに警察に対応を委ねているのであれば、その旨を短く伝えるのみでよかったようにも感じます」

(文=Business Journal編集部、協力=平能哲也/危機管理・広報コンサルタント)

平能哲也/危機管理・広報コンサルタント

平能哲也/危機管理・広報コンサルタント

PR会社で16年間仕事をした後独立し、その経験とノウハウを生かし企業、自治体、団体などの組織向けに「危機管理」「危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)」「広報」の各種テーマに関する各種業務に講師、コンサルタントとして約25年間従事。著書3冊の他、新聞、雑誌、インターネット、TV等の各メディアへの寄稿、連載(雑誌)、インタビュー取材、コメント提供なども行う。公益社団法人日本広報協会 広報アドバイザー。
平能哲也の公式HP