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北海道新幹線、札幌まで延伸すると苦境が一変する可能性…東京と直結し乗客増加

2025.05.07 2025.05.07 17:38 企業
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北海道新幹線(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
・北海道新幹線、新函館北斗―札幌間の全線営業が8年後ろ倒しの2038年度末になる公算
・JR北海道にとって営業利益を上げられる可能性のある路線
・南関東と札幌市付近の往復、都心部と空港とのアクセス、北日本特有の冬季の悪天候の影響を考えると新幹線が有利

 北海道新幹線が、経営悪化が続くJR北海道の経営にとって重荷になりつつある。新函館北斗―札幌間の全線営業は2030年度末の予定となっていたが、同新幹線整備に関する有識者会議は3月、札幌延伸の開業目標について2038年度末に延期するとの報告書をまとめた。JR北海道は近年、業績悪化が続いており、24年3月期連結決算の営業利益は499億円の赤字であり、経営安定基金の運用益と国からの補助金などで経営を維持している。そうしたなか、12年に着工した北海道新幹線は、すでに営業している新青森駅―新函館北斗駅の乗車率が3割弱と低迷が続いており、線区別収支では大幅な赤字となっている。JR北海道は北海道新幹線をどのように経営改善、そして成長の糧にしていけばよいのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

開業が8年も後ろ倒しになる理由

 まず、なぜ開業が8年も後ろ倒しになるのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「北海道新幹線新函館北斗~札幌間の建設工事を担当している独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運気機構)は2025(令和7)年3月14日現在、新函館北斗~札幌間の開業時期を示すことができていません。国土交通省が設置した『北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する有識者会議』では2038(令和20)年度末以降と示されたとのことで、つまり早くても2039(令和21)年春以降の開業となりそうです。

 開業が遅れる理由として挙げられるのはトンネルの掘削に難航しているからです。新函館北斗~新八雲(仮称)間にある長さ約32.7kmの渡島トンネルと新小樽(仮称)~札幌駅間にある長さ約8.4kmの札幌トンネルとでは地質不良に悩まされて『想定を下回り難航』とされ、長万部~倶知安間にある長さ約9.7kmの要諦トンネルでは強固な岩の塊に阻まれて工事が停止中となっています。日本のトンネル掘削技術は世界一の水準ですが、それでも難工事となっており、いかに厳しい状況かがわかるでしょう。また、難工事には昨今の人手不足も追い打ちをかけていると見られます」

 北海道新幹線の乗車率が低迷しているという指摘もなされているが、利用状況や路線の経営はどうなっているのか。

「北海道新幹線新青森~新函館北斗間の2023(令和5)年度の1日平均の利用者数は3828人で、西九州新幹線武雄温泉~長崎間の約6900人(2023年9月23日~2024年9月22日)を下回り、全国の新幹線のなかで最も少ない人数となっています。JR北海道は同年度の北海道新幹線の営業収支を117億円の赤字と公表しています。同年度の同社の鉄道事業における営業損失は599億円でしたから、北海道新幹線の営業損失は全体の19.5パーセントを占めており、多くを占めているといえます。ただし、北海道新幹線の営業費用には多額のコストを要する青函トンネルの維持費も含まれていると考えられ、利用者が少ないことが営業損失の最大の理由とはいえ、経営努力が足りないとは一概にはいえません」(同)

北海道新幹線の利用者数は少なくとも1万人以上に

 北海道新幹線がJRの経営の経営を圧迫する懸念はないのか。

「JR北海道の発表では2023年度に鉄道事業で営業利益を上げた路線・区間は札幌圏を含めて一つもありません。そうしたなかで北海道新幹線新函館北斗~札幌間の延伸は同社にとって営業利益を上げられる可能性のある路線だといえます。

 国が5年ごとにまとめた『全国幹線旅客純流動調査』によると2015(平成27)年度に南関東(東京都、埼玉・千葉・神奈川の各県)と札幌市付近との間を往復した人の数は1日平均2万514人でした。現状で交通機関別のシェアでは新幹線の割合は極めて少ないのですが、東京~札幌間が新幹線で結ばれると一変する可能性があります。北海道新幹線開業後も所要時間面では航空が有利ながら、都心部と空港とのアクセス、それから北日本特有の冬季の悪天候の影響を考えると新幹線が有利だからです。

 たとえば、2015年度に南関東と青森市付近とを往復した人の数は1日平均3257人で、うち71.1パーセントの2314人が新幹線を利用しました。在来線に乗り入れる秋田新幹線は所要時間面では航空と比べて不利ながら、同年度に1日平均4303人が南関東と秋田市付近とを往復したなか、新幹線を利用した人は1877人で、43.6パーセントを占めていました。

 仮に1日平均2万514人の利用者のうち、新幹線のシェアが青森市付近の71.1パーセントであれば1万4585人、秋田市周辺の43.6パーセントであれば8944人になると考えられます。現状の北海道新幹線の1日平均の利用者数の3828人を加えれば、北海道新幹線の利用者数は少なくとも1万2772人から1万8413人になるでしょう。この数値でも損益分岐点付近かもしれませんが、新幹線という乗り物が新たに開業することで新たな移動需要が生まれる点を加味すれば、札幌延伸に期待は高まります。

 とはいえ、開業時期が見通せないなか、JR北海道が新函館北斗~札幌間の開業まで経営を維持できるかどうかは不明です。並行在来線となる区間を先行して同社から経営分離するとか、JR旅客会社同士でコストを比較して総括原価方式で上限運賃を決める方式を見直して、同社が存続可能な運賃に改められるようにするなど、行政側の援助が求められます」(同)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

Twitter:@umeharatrain