今、三菱UFJもNTTドコモもこぞってデジタルバンクに参入している理由…目的は全く異なる?

●この記事のポイント
・MUFGは、デジタルバンクをメインに据えるリテール向け新サービスブランド「エムット」を立ち上げる
・若年層をオンラインバンキング専業サービスで取り込まないと成長できない
・NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収する狙いとは
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は5月27日、デジタルバンクをメインに据えるリテール向け新サービスブランド「エムット」を立ち上げると発表した。クレジットカード・スマホ決済・資産運用など個人向け機能を総合的に提供し、三菱UFJ銀行のネットバンキングアプリからアクセスして利用できる。MUFGはすでにネットバンキングサービスを提供しているが、なぜ今、新たにデジタルバンクを立ち上げるのか。また、その2日後の5月29日には、NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収してインターネット銀行業に参入すると発表したが、なぜ業界の垣根を超えてデジタルバンクへの参入が相次いでいるのか。専門家への取材をもとに追ってみたい。
●目次
若年層を獲得
MUFGはグループ内にクレジットカードの「三菱UFJカード」、スマホ決済の「COIN+」、ネット証券の「三菱UFJ eスマート証券」、資産運用(ロボアドバイザー)の「WealthNavi for三菱UFJ銀行」を持っており、国内銀行としては最大の約4000万に上る個人口座の保有者が「エムット」を通じてこれらのサービスをシームレスに利用できることを目指す。クレカ決済や各種サービスの利用に応じて獲得できる「エムットポイント」というポイントサービスも設ける。
個人向け総合金融サービスとしては三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が2023年から提供する「Olive(オリーブ)」が先行しており、開始からわずか2年で500万口座を獲得。MUFGの動きはこれに追随するものとの見方もあるが、松井証券のシニアマーケットアナリスト・窪田朋一郎氏はいう。
「コロナ以降、銀行サービスはオンライン化が進んできており、主要ネット銀行の口座数が4000万口座を超え、この流れがさらに加速していますが、ネット口座の保有者の中心は主に40代以下の世代、つまり若年層です。その若年層をオンラインバンキング専業サービスで取り込まないと成長できないとメガバンクは考えています。ネットバンキングは、店舗を持たずに固定費を抑えられるため収益性が高く、成長している領域なので、メガバンクとしては注目しています。
もう一つの要因としては、日銀によるゼロ金利政策の撤廃があります。預金残高を増やして稼ぐことが重要になってきており、そのためには高齢者よりも若年層・中年層を取り込む必要があります」
三菱UFJFGの「エムット」の内容として注目すべき点は何か。
「機能としては他社のネットバンキングが提供しているものと大きな違いはないですが、銀行、クレジットカード、証券、資産運用、相続サービスなどを一元的に管理できるプラットフォームというのが目新しい取り組みだと思います」(窪田氏)
SMBCグループの「Olive」の後追い的な動きとの見方は、どう捉えるべきか。
「OliveはSBI証券などSBIホールディングス(HD)と提携しており、SMBCグループとしては顧客基盤が潤沢なSBIとの連携をよりいっそう深めたいという意向を持っているかもしれませんが、先日にはSBIHD傘下の住信SBIネット銀行がNTTドコモからの出資を受け入れることを発表したりと、SBIはできるだけフラットな立ち位置を維持していこうという姿勢をみせています。こうした動きを踏まえると、総合金融サービスとしてOliveがすごく進んでいるという状況とはいえないかもしれません」(窪田氏)
金融のエコシステムを取り込むことによって収益性を向上
折しもMUFGの発表の2日後には、NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収すると発表。ネットバンキングサービスへ参入する。
「MUFGのデジタルバンク設立とは目的は別と捉えるべきでしょう。国内ではスマホの普及が一巡して通信事業の成長の伸びしろがなくなりつつあります。そうしたなかで顧客が離れにくい金融のエコシステムを取り込むことによって収益性を高めていこうという戦略があります。ソフトバンクグループはPayPayやPayPay銀行を自前で展開し、auもauじぶん銀行を持ち、楽天モバイルを展開する楽天グループも楽天証券と楽天銀行を抱えて、通信各社は金融事業との融合を進めていますが、ドコモはこれまで自前で銀行サービスを持っていませんでした。自前で銀行を立ち上げようとしていた時期もありましたが、すでに多くの顧客を抱えていて先進的なシステムが出来上がっている住信SBIを買ったほうが早いという判断だとみられます」
大手キャリア関係者はいう。
「携帯電話の契約プランによって銀行サービスの利子を優遇したり、銀行口座を持っていると携帯料金面やポイント面で優遇したりと、通信と金融を総合的に提供できると、顧客をつなぎとめるための施策のバリエーションの幅が広がります。なかでも楽天グループはショッピングやカード、楽天Payなどと組み合わせてさまざまな優遇措置をつけることができており、これが楽天モバイルの契約者増につながっています」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=窪田朋一郎/松井証券シニアマーケットアナリスト)