しかしこのいずれのシナリオでも、「佐藤体制」で冷遇されてきた旧富士銀勢の不満が高まる一方である。旧富士銀勢は、みずほFGトップには辻田泰徳・同社副社長兼みずほ銀副頭取を、銀行トップには岡部俊胤・みずほFG副社長兼みずほ銀副頭取を押し立てて巻き返しに出ようと態勢を築いていた。2人とも旧富士銀の実力者だった前田晃伸氏の側近だ。
興銀出身者を、みずほ銀の後継頭取に指名したら「旧興銀のひとり勝ち」というグループ内の不満はさらに高まる。暴力団に融資したオリコは旧第一勧銀案件であったため、第一勧銀出身者を頭取につけるわけにはいかない。
こうなると富士銀から選ぶしかないが、旧富士銀勢を封じ込めることに力を注いできた佐藤氏は、前田氏の側近たちをトップに起用するつもりは毛頭なかった。そこで消去法でたどりついたのが、「(前田氏ら)OBのつながりがなく、旧行意識がない」林氏だったわけだ。
これまでみずほグループは旧行同士の対立が絶えなかった。佐藤氏が、金融庁の意向を受けみずほFG社長とみずほ銀トップを兼務する「ワントップ体制」で旧3行の確執を押さえ込もうとしたわけだが、もろくも崩れてしまった。「ワントップ体制」が崩壊し、再び3行の対立が激しくなる可能性が高まっている。
●委員会設置会社への移行という劇薬
金融界の最大の関心は、みずほFGが6月に委員会設置会社へ移行することだ。コーポレート・カバナンス(企業統治)を強化し経営の透明性を高めるために、経営の監督機能と業務執行機能を分離する。03年4月の商法特例法改正で委員会設置会社の制度が導入された。役員人事を決める「指名委員会」のメンバーはすべて社外取締役とする方針だが、これは劇薬になる。指名委員会は役員の選任はもちろん解任権も手にする。
その一方で、ソニーのハワード・ストリンガー元CEOが批判を受けたように、経営トップが親しい社外取締役を置き、経営責任を問われないようにする危険性もある。委員会設置会社への移行が経営の透明性につながるという保証はない。
冒頭の23日の会見で「6月末の委員会設置会社への移行後、持ち株会社の社長も辞めるのか」との質問を受けた佐藤氏は、「枠組みをつくったら責任が終わるということではない。6月で辞めることはまったく考えていない」と否定した。会見に主席した全国紙記者は「佐藤氏は辞めないと強く否定した直後に、みずほ銀の頭取の椅子を放り出した。6月に佐藤氏がみずほFG社長の座から、突如降りることだってあるかもしれない」と言っている。
みずほFGのガバナンスは果たして正常化するのか、金融界の注目が集まっている。
(文=編集部)