これにより「新生ハウステンボス」の出資金はHISの20億円と合わせて30億円。片や負債は約12億円。澤田会長は出資金の一部を負債の一括弁済に充て、事実上無借金経営を実現した。そして、HISは10年3月26日に東京地方裁判所に認可された「更生計画」に基づき負債の一括弁済と担保権の抹消登記、総額30億円の資本金払い込みと資本金の全額減資など所定法定手続きを経て4月6日、ハウステンボスを子会社化(出資比率約67%)した。
この時点で、澤田会長によるテンボス再建の8割方は終了済みと見てよいだろう。あとは一気呵成に経営改革を推し進めるだけだった。
七社会関係者の一人は「支援交渉を進めているうちに、自然な流れでそれが買収交渉に変わっていた。終始、澤田さんの筋書き通りだった」と苦笑まじりに振り返ると共に、そのしたたかな交渉ぶりに舌を巻いている。
●澤田社長のシナリオ通りに進んだ経営再建
ところで、HIS関係者の一人は「実は05年頃、再建を持て余していた野村PFから、秘かに支援の打診があった。その時は『経費がかさむ割に商圏人口が少ないので、再建は無理』と判断、断っていた。しかし、その後もハウステンボスの動向は注視していた。そのうちに澤田の再建構想が出来上がっていったものと思われる。だから七社会から打診があった時から、支援ではなく買収の腹を固めていたと思う」と推測する。
この推測は、HISの監査チームが提出したデューデリジェンスを見た澤田氏が「側近に『テンボスは宝の山だ』と漏らしていた」(別の同社関係者)との話とも符合する。
その宝の山とは、ハウステンボスの前身である「長崎オランダ村」を経営していた神近義邦氏が、単独のテーマパークとしては国内最大の約46万坪の敷地にシンジケートローンから調達した約2200億円を投入し、精魂を傾けて開発した沃野である。雑草も生えない荒れ地を土壌から改良し、綿密な植生調査に基づいて約40万本の樹木と約30万株の花を植え、運河を掘って自然の生態系を蘇らせ、優美な景観を醸し出した。さらに独自の下水処理システムやゴミリサイクル施設を建設。エコロジカルなリゾート施設に仕上がっていた。無為無策の経営者によって朽ちさせてしまうには、あまりにも惜しい優良事業資産だった。
澤田氏にとってハウステンボス買収は胸の奥深くに秘めた悲願だったからこそ、シナリオを丹念に練り上げ、伏線を慎重に敷き、攻める時期が来ると果敢に攻め立て、鮮やかな手並みで買収を成功させたものと思われる。
(文=福井晋/フリーライター)