株式を公開していない。だから、買収に怯えることもない。上場企業と違い、未上場企業は有価証券報告書の作成義務もない。決算を公告する義務はあるが、会社法に罰則規定がないことから、実際には決算公告を行っている会社はごく一部だけだ。外部から見れば、財務・会計面でも、未上場企業は上場企業に比して不透明といえよう。外部株主がいる場合や、外部から監査役を招くなどの措置を講じていなければ、社内は閉鎖性を強めていく危険をはらんでいる。
中小企業であれば、親族経営の会社は家族的な空気がつくり出せ、一体感が高まることもあるだろうが、企業規模が大きくなっても閉鎖性の強い社内風土では、そこで働く社員の外を見る目を塞ぐことになる。消費者や世間から自分たちがどう見られるかではなく、まず意識することは、上司の目や同僚の目になりがちだ。特に創業者一族の経営支配力が強い企業では、しばしば社員は創業者一族の意向を忖度して仕事に当たりがちだ。結果、波風立てず、何事もおざなりにやり過ごすようになる。また、そんな社員が重用され、「事なかれ主義」「セクショナリズム」が社内では蔓延する。いわゆる“大企業病”だ。
●新しい発想は無視される
そんな大企業病に陥っているといわれているのが、コーヒー飲料メーカーとして名高いUCC上島珈琲だ。こうした声は同業他社のみならず、当の社内からも上がっている。UCCは老舗として知られるが、その歴史の割には、ヒット作はロングセラーの「UCCミルクコーヒー缶250g」くらいしかない。
若手や中堅社員の中には、これまでのUCCの持つ伝統と歴史を打ち破った斬新な新規商品の開発や新規販売網の開拓を提案したり、保守的とされる社風を覆す広報・宣伝に力を入れようと提言する者もいるようだ。しかし、このような意見はことごとく無視されるという。
「UCCミルクコーヒー缶250g」は、UCCが最も輝いていた時代から続くヒット商品だ。創業者・上島忠雄が自ら手掛けた商品でもある。甘く濃厚な味は今なお多くのファンがいるが、健康志向が強まっている現代にあっては、時代遅れの商品といえなくもない。
だが、今の時代に即した新商品を手掛けようにも、創業者自らが手掛けたロングセラーの存在があまりにも大きい。ロングセラーとして十分売り上げも出している。従って新規開発の際、UCCの特徴である濃厚な味に仕上げておけば無難だという発想に陥りやすい。
●外部に目が向かない広報
創業者一族を過剰に意識するあまり、広報・宣伝といったブランディング部門も弱体化が著しい。UCC社員によると昨年の秋、ビジネスサイト「ダイヤモンド・オンライン」が特集した『KOBE珈琲ものがたり』の中で、同社を取り上げようという動きがあった。
その際、UCC東京本社の広報では、取材を申し込んだ記者に「(取材時の)質問内容について簡略にまとめたペーパー」の提出を要求。記者はこれに応じ、文書を提出した。しかし、広報課の担当者からそれを受け取った上席者は「もっと詳細な質問内容がわからなければ、取締役会に上げられない」とし、今度は簡略ではなく詳細な質問内容を記載したペーパーの提出をダイヤモンド側に再度求めた。
こうしたUCC側の動きを受け、ダイヤモンド側は、詳細な質問内容を記載したペーパーを送付した。そのペーパーには、創業者一族・上島家とそのルーツを同じくするウエシマコーヒーフーズなど、“ウエシマコーヒー”を称する各企業群に関することや、なぜ未上場なのかといった経営に関する質問などがあり、広報課の役職者らが創業者一族にこれを渡すことを恐れ、「もっと質問内容を婉曲にしてほしい」と要求し、記者に再び突き返した。
「この話を聞いたとき、ちょっとヤバいなと思いました。いくらなんでも、広報の担当の仕切りが悪すぎます。メディアからの取材を積極的に自社宣伝に役立てるのが広報の役目なのに、自社の都合ばかり押し付けています。しかも相手は、経済誌として一流のダイヤモンドでしょう。ダイヤモンド側が求めてきたのは、経営者インタビューだったといいます。広報が変に気を回して、あれこれ注文をつけてかき回してしまいました。もし掲載されていれば、大きな宣伝効果があったと思われるだけに、残念です」(UCC社員)