そのような状況下で資産保全のために多くのキプロス国民が、正式な通貨としてまだ評価されていないビットコインを使って資産を海外に持ち出すなど資産保全に動いた。
そうした動きの中でビットコインの価値が急上昇。これに投資筋の投機が殺到し、13年には年初は1ビットコイン=14ドルだったものが同240ドル前後まで高騰した。
さらにこうした動きは中国でも広がり、外貨への換金や海外への持ち出しが規制されている人民元をビットコインに替える「ビットコインバブル」が勃発。一時は同1200ドルまで値上がりしたが中国中央銀行がビットコインへの交換を禁止し、年末には500ドルまで下落した。
●犯罪で広がる規制への動き
一方で匿名性が高くネットを使って簡単に取引することのできるビットコインが、犯罪にも利用されるようになる。例えば1月には米ニューヨークでビットコインの取引所「ビットインスタント」を運営するチャーリー・シュレムら2人がマネーロンダリング(資金浄化)の共謀容疑で訴追された。
シュレムらは闇取引サイト「シルクロード」にビットコインを提供して手数料を得て、同サイトには麻薬などの取引に用いられる違法マネー10億ドル以上が流通したといわれる。ちなみに「ビットインスタント」はビットコイン取引所として米財務省に初めて登録され、シュレムはウォルマートやドラッグストアのCVSなどでビットコインを利用できるよう尽力したという立志伝中の人物だ。
米国議会からはビットコインの取引禁止を求める声なども上がり、ニューヨーク州の金融当局も規制に意欲を示しているという。さらに2月にはロシアが、ビットコインはマネーロンダリングなどの犯罪の温床になるとして非合法化、インドも政府の勧告でビットコインの取引所を閉鎖した。
ビットコインは悪用される一方でビットコインそのものを強奪する動きまで出てきているともいわれている。米セキュリティー会社トラストウェーブは、ネット上でビットコインを不正に取得するウイルス「ポニー」に10万台のコンピュータが感染したことを明らかにしている。オーストラリアや中国、チェコなどでは、取引所を狙った“サイバー銀行強盗”が連発している。
今後、ビットコインはどうなっていくのか。マウントゴックス破たん以降も相場の下落はあるものの、取引は続き、2月28日には香港でビットコインの対面型販売店が開業した。しかし主要な取引所の実態が「ビットインスタント」やマウントゴックスと同様であれば、ビットコイン市場は苦境に陥っていくことになるだろう。
通貨発行権を持つ国家との対立、そして国家による規制という構図も、今後の大きな足かせとなるだろう。果たしてビットコインは直面する難題を乗り越え、世界的通貨の地位を得ることができるのか、今後の動向に注目が集まっている。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)