3月14日付日本経済新聞記事によると、クラウドコンピューティングの安全基準について、日本発の基準が国際規格として採用される見通しになったという。日本が策定する指針をベースに、国際標準化機構(ISO)が2015年4月に最終案を取りまとめ、同年10月から国際規格として発効する予定となっている。
生活支援ロボットでも同様の動きがあった。2月1日、介護や家事などを手伝う生活支援ロボットの国際安全規格がISOから正式発効されたのだが、これは日本が発案したものだった。ちなみに介護ロボットの市場規模については、35年には4043億円にまで膨らむといわれている(経済産業省の試算)。
こうした動きは日本に有利に働くと見られている。国際規格が決まる前に日本企業は国内基準で製品・サービスの開発に取り組んでおり、それがそのまま国際規格になれば、海外進出が容易になる。グローバル市場でシェアを拡大する上でも、日本発の国際規格は日本にとって追い風となるというわけだ。
●激しさ増す標準化競争
裏を返せば、海外発の国際規格は日本にとって逆風になることもあり得る。
非接触型ICカードの技術「フェリカ」は、ソニーが開発したもので、国際規格への登録を目指していた。しかし、すでに国際規格に開発技術が登録されていた欧米企業の抵抗に遭い、フェリカは国際規格になることができなかった。結果的には、別の国際規格(近接型通信システム)に登録することはできたのだが、それでもフェリカが非接触型ICカードの国際規格でないという事実は、欧米企業につけいる隙を与えることとなった。事実、欧米企業は「政府機関は国際標準技術を調達するべき」として、国際貿易の調停機関である WTO を通じて異議を申し立て、JR東日本のフェリカ導入を(JR東日本は準政府機関というロジックで)妨害しようとしてきたのである(森直子・総合研究開発機構リサーチフェロー「国際標準化の問題とアジアへの展望」より)。
結局、JR東日本はフェリカ技術を採用した電子マネー「Suica」を導入するに至っているが、標準化競争は生活の身近なところにも影を落としているのである。例えば、携帯電話の標準化競争で敗れた日本が海外展開で不利な立場に追いやられてきたという歴史もあることを忘れてはならない。
1990年代以降、標準化をめぐる国際競争は激しくなっている。ヨーロッパが主導権を握る場面が多く、日本は苦杯をなめることも少なくなかった。最近では日本も国レベルで「標準化」に力を入れるようになり、上述したような成果も出てきている。国家主義や地域主義を助長しかねない標準化競争に市場重視の日本が加担するべきではないとの声もあるが、現状では、日本の国益を守るために対抗せざるを得ないというのが現実でもある。
(文=宮島理/フリーライター)