例えば横浜DeNAベイスターズは、野球が好きな人から野球を見たことがない人まで、さまざまな人がスタジアムに集いコミュニケーションを育むことを目指す「コミュニティボールパーク化構想」を掲げ、多様な観戦シートを新たに設置したり、球場内外で各種アトラクションやイベントなどを仕掛けるなどして、積極的な取り組みを展開している。こうした取り組みが功を奏し、昨年のレギュラーシーズンでは、観客動員数が前年比22%増と12球団中トップの伸び率を記録した。
そんな横浜DeNAベイスターズの全社員と選手が考えた、プロ野球ファンをより楽しませるための計143件にも及ぶアイデアを掲載した書籍『次の野球』(ポプラ社)が、3月に発売された。本書の中には、「外野フェンスを透明にして、車に乗ったままで観戦できるドライブインスタジアム」「ヒーローインタビューがゴンドラで、観客席近くまで接近」「プロ野球選手のスイングで叩く布団たたき屋サービス」などユニークな内容が数多く盛り込まれている。
そこで今回、本書を企画した横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長の池田純氏に、球団経営改革の舞台裏や今期の重点戦略などについて聞いた。
–本書の元になったアイデア集は、どのような目的で作成されたのでしょうか?
池田純氏(以下、池田) プロ野球界には、日本全国各地に拠点を構える各球団が、「12球団で構成された“株式会社プロ野球”の支店」というような考え方の人もいます。12の球団が、他球団の成功事例をそっくりそのまま真似し続けたらどうなってしまうでしょう。各プロ野球球団は、まったく同じ球団を日本に12個存在させるつもりもないでしょう。私はだからこそ、個々の球団の経営努力が大切だと考えています。プロ野球にはすばらしい歴史と文化がありますが、全体としては、観客数が伸び悩んでいたり、テレビでの露出が減っていたりするなど、難しい時期にあるともいえるでしょう。
そこで、会社として大切にしなければならないものを全職員に共有し、球団の仲間として監督・コーチ、選手にも知ってもらいたいと考えたことが、本書を制作するきっかけでした。なぜ新しいことに挑戦するのかを理解してもらうと共に、全員が共有してもらいたいアイデンティティを浸透させることが目的でした。気軽に読めて全職員が持っているブランドブック的なものをつくろうと。
–ブランドブックの制作は、いつ頃、思いつかれたのでしょうか?
池田 社長に就任して1年目のシーズンが終わった頃です。就任1年目はいろいろなアイデアを出して、失敗したり、ご批判をいただいたりしながらも、アイデアを大切にしたことにより、話題が提供でき、その効果によって観客数を増やすことができました。2年目はマーケティングを導入し、見定めたお客様層に向けたアイデアと企画の実行、そしてチームの成長、この両軸により観客動員数が前年比で22%増加しました。