信販会社オリエントコーポレーションを通じた暴力団融資問題に揺れたみずほFGは、6月に委員会設置会社に移行し、社外取締役が経営を監督する体制に移行する。みずほFGの新体制では、13人の取締役のうち大田氏ら新任の3人を含めた6人が社外取締役となる。すでに社外取締役になっているのは野見山昭彦・JXホールディングス元社長、大橋光夫・昭和電工元社長、安楽兼光・日産自動車元副社長の3人だった。「社内6人・社外3人」だった取締役の構成が、新体制では「社内7人・社外6人」と社外が半数近くを占めるかたちに変わる。
みずほFGは、社外取締役の権限が強い委員会設置会社への移行と、社外取締役の取締役会議長への起用をコーポレートガバナンス(企業統治)強化策の目玉と位置付けてきた。取締役会議長の権限は定款または取締役会規則で定められているが、取締役会の招集権者と同様、議長には取締役会長または取締役社長がなるのが一般的である。つまり取締役会議長は、経営において最も力を持つポストといえる。
社外取締役導入の先駆者であるソニーは、かつて取締役会議長に経済学者の中谷巌氏を起用したことがあるが、今回のみずほFGの大田氏起用は思い切ったサプライズ人事だった。みずほFGの取締役に女性が就くのは初めてで、他の社外取締役が全員70歳以上の中で1人だけ60歳と若い。ちなみに、大田氏はマクロ経済や経済政策には通じているが、過去に本格的な企業経営の経験はない。
では、みずほFGの狙いはどこにあるのか。佐藤康博社長は記者会見で「最初から大田氏に絞っていた」と語り、「大臣の経験もある。高い見識や、マクロ的な視点、国際感覚がみずほにとって必要。優れた調整力も持たれており、取締役会議長に最適な方だ」と説明した。その一方で「大田氏には女性の立場から意見を述べてもらいたい」との期待を示した。女性の起用で、一連の暴力団向け融資問題で傷ついたみずほのイメージアップを図りたいという意図が透けて見えてくる。
●安倍政権との太いバイプ
大田氏の取締役会議長への起用は、大田氏が安倍晋三政権と太いパイプを持つことが決め手になった。大田氏は鹿児島県出身で一橋大学社会学部卒。財団法人、生命保険文化センターの研究員当時、本間正明・大阪大学教授に認められ、本間氏が小泉純一郎政権で経済財政諮問会議民間議員、政府財政調査会委員の要職に就くのと同時に、大田氏は大学を離れて小泉内閣の内閣府参事官に転身した。その後、本間氏は06年の安倍第1次内閣では政府税制調査会会長に就任したが、国家公務員官舎を大阪大学が財務省から無償で借り受け、本間氏が大阪大学に相場より大幅に安い家賃を払っていたことが告発され、同年12月にわずか1カ月で会長辞任に追い込まれた。
一方、大田氏は同年に安倍第1次内閣で経済財政担当相に起用された。安倍首相に大田氏を強力に推薦し、躊躇する大田氏を「新しい民間議員のリード役を務めてほしい」と説得したのが、安倍首相の指南役であった牛尾治朗氏(ウシオ電機会長)だった。小泉政権で経済財政政策担当相などを歴任し、改革の旗印となった竹中平蔵氏の役割を大田氏に期待してのことだったが、安倍第1次政権は短命で終わり、大田氏は政策研究大学院大学教授に戻った。