さらに13年9月と今年1月、ランバクシーはインド国内の別の2工場でもFDAから対米輸出禁止処分を受けた。これで計4工場が対米輸出禁止になる異常事態に発展した。これを受け第一三共は2月、処分を受けた4工場のうち、2工場を操業停止せざるを得なかった。停止した2工場は世界各国のランバクシーの工場へジェネリック原料を供給しているマザー工場だった。これでランバクシー自身のジェネリック事業が瀬戸際に立たされる羽目に陥ったのだった。
ちなみに米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は4月8日、ランバクシーのインド工場のずさんな品質管理の実態について次のように報じている。
「従業員は原料と成分がFDA基準に合致しない時は、試験結果を改竄して合致したように見せかけていた」
「同工場内研究所は『ひどく荒廃』しており、窓は閉まらず、ある部屋には『数え切れないほどの蝿』がいた」
「保守担当者は、実施していない検査を実施したかのように見せるため、空白の書類に署名だけをすることがしばしばあったと証言」
第一三共は一連の事態を受け、ランバクシー創業家CEOを更迭し、自社から約10名の技術者を派遣、品質管理体制を点検したが、抜本的改善には至らなかったようだ。
●甘いデューデリジェンス
また、買収前のデューデリジェンス(投資先の経営実態調査)の甘さも指摘されている。前出の4月7日の記者会見で中山社長は、「事前に入手可能な情報で『適切な精査』をした」と釈明した。だが、証券アナリストは「一体どんな精査をしたのか。ランバクシーの事業モデル評価や同社の世界販売網を利用した売上拡大のシミュレーションに注力するあまり、メーカーとして最重要な品質管理評価をないがしろにしていたのではないか」と分析する。
また、中山社長は会見で「今年中にサンとの事業提携に向けた交渉を煮詰めたい」と、頓挫したジェネリック事業戦略の善後策も説明したが、サンも今年3月にインド国内の1工場がFDAから対米輸出禁止処分を受けたばかり。ランバクシー株との交換で新たに株式を取得したサンの経営自体が、FDA処分で先行き不安状態なのだ。
市場関係者の一人は「FDA処分を受けてからの6年間、ランバクシーの品質管理問題を何一つ解決できなかった同社の海外マネジメント能力こそ深刻な問題だ。高い授業料を払ってランバクシーから何も学習していない。これでは同社のグローバル事業の先行きが思いやられる」と批判する。
グローバル事業とジェネリック事業の戦略練り直しを迫られた第一三共は、しばらく厳しい経営環境が続きそうだ。
(文=福井晋/フリーライター)