一方、大島氏の弁護側は14日、虚偽の債権譲渡登記をした電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪について懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・8年)とした地裁判決を不服として東京高裁に控訴した。高裁で同罪についてのみ審理が続く。
大島氏はSFCGが民事再生手続きの開始決定を受ける約2カ月前の08年12月、SFCGが保有する簿価約418億円の不動産担保付貸付債権を無償で親族会社の白虎に譲渡し、SFCGと債権者に損害を与えたとして詐欺再生罪、特別背任罪で起訴された。
公判では、(1)SFCGに倒産の恐れがあり、それを被告が認識していたか、(2)債権が実質的に無償で譲渡されたか、の2点が争点となった。田村政喜裁判長は、法人税が延滞されていたことなどから、SFCGに倒産の恐れがあり、被告も認識していたと認定。一方で債権譲渡に伴い、SFCGが白虎から受け取るべき約75億円が、SFCGの関連会社に対する債権(計約97億円)と相殺されているとして「無償ではなかった」と判断し、資産隠しの成立を認めなかった。ただ、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪については、執行猶予付きの有罪とした。
史上空前の資産隠しと大騒ぎになったSFCG事件は、詐欺再生については無罪が確定した。法律の表にも裏にも精通した法律のプロである大島氏は、起訴されることを見越していた。大島被告の“裏技”に検察は完敗した格好となった。
●法律を使ったスマートな取り立て
“カネ貸しの帝王”として名をはせた大島氏は、いかにして法律の抜け穴に通じたプロになったのか。大島氏の半生を振り返ってみよう。
大島氏は1948年2月、大阪府生まれの団塊の世代である。70年、慶應義塾大学商学部を首席で卒業後に三井物産に入社。独立志向が強く77年に三井物産を退社し、大手企業が進出しない金融業に目をつけた。消費者金融(サラ金)や手形割引(マチ金)は群雄割拠状態だったため、すき間分野になっていた零細事業者向け金融の商工ローンを手掛けることにし、商工ローンで急成長していた京都の日栄(現・日本保証)で金融業のイロハを修業した。
金融業の生命線は貸付金の回収にある。当時、日栄は「腎臓1個300万円で売れ、目ん玉1個売れ」という恫喝的取り立てで、全国に悪名を轟かせた。だが、大島氏は日栄のそのような恫喝取り立ては見習わず、法律を使ったスマートな取り立てを目指した。
SFCGの回収の手法は、白紙委任状+公正証書+連帯保証人の3点セットである。最大の特徴は強制執行できる強制執行認諾条項付公正証書にしておくことだ。公正証書とは法務大臣から指名された公証人が作成する法律文書で、これがあれば、裁判所の判決がなくても財産の差し押さえや強制執行ができる。金銭消費貸借契約書の裏にカーボン紙を挟んだ委任状をセットし、融資契約にサインすると、自動的に複写されて委任状が出来上がる仕組みになっていた。委任状があれば債務者本人でなくても公証人に公正証書を作成してもらえる。こうしたやり方で、債務者・保証人の預金や給与を差し押さえ可能な強制執行認諾条項付公正証書を大量に作成した。