SFCGが年間に作成していた公正証書は4万件以上。これは全国の公証人が作成した金銭貸借関係の公正証書24万件の6分の1を占めた。公正証書を飛び道具にして、給与を差し押さえ、不動産を押さえていった。債務者には、借金すると同時に不動産に根抵当権設定仮登記が行われているという認識はなかった。強力な弁護団をバックに法律に疎い債務者や連帯保証人を法律でがんじがらめにして、法律を使って貸付金を回収していった。こうした手法は、法律を悪用した「司法テロ」と呼ばれた。
SFCGがわが世の春を謳歌できたのは、06年に改正貸資金業法が施行され、貸金業の規制が強化されるまでだった。利息制限法を超えた利息の返還を求める過払い金請求訴訟の敗訴が続き、経営を圧迫した。トドメとなったのが、08年に経営破綻した米投資銀行、リーマン・ブラサーズによる猛烈な貸し剥がしである。これでSFCGは新たな資金調達ができない状態になった。
SFCGは09年2月に、東京地裁に民事再生手続き開始を申し立てた。あまりの乱脈経営に地裁は09年3月に再生手続きを廃止、破産手続きに移行した。負債総額は3380億円に上った。
●財産隠しの実態
立件された418億円に上る資産隠しは、大島氏が倒産前に蓄財した資産のほんの一部にすぎなかった。SFCGの破産管財人に就いた瀬戸英雄弁護士は09年4月、「極めて悪質な財産隠し」であるとして、以下の実例を明らかにした。
「民事再生申し立て(09年2月)前の4カ月間に、不動産担保付貸付債権や株券など約2670億円のSFCGの資産を、大島元会長の親族会社7社に無償や格安で譲渡した。大島元会長が自宅にしている都内屈指の高級住宅街、東京・渋谷区松涛の建物(地上2階、地下2階)と空手道場は、妻が代表取締役を務める不動産会社の所有。SFCGは『ゲストハウス』として使うという名目で家賃を負担していた。1カ月当たり1525万円の家賃を08年10月からは3150万円に引き上げて、妻のカンパニーに払った。他の役員の報酬は月額30万円だったにもかかわらず、08年8月から大島元会長自身の役員報酬を月額2000万円から9700万円に増額した」
松涛にある“カネ貸し帝王”の王宮と呼ばれた堅牢な石造りの高塀に囲まれた超豪邸は、破産管財人に8800万円支払うことで話がまとまり、大島ファミリーが取り戻している。
法律の裏に精通した大島氏は、裁判所が有罪にできない手口を知り尽くしていた。東京地裁の判決に続く東京地検の控訴断念が、それを物語っている。
(文=編集部)