昨年9月の統合発表から9カ月。総会の議長を務めた会長兼社長の東哲郎氏は、ほっと胸をなで下ろした。特に気を使ったのは“対等”の精神だった。
統合発表の際、東氏は「日米でまれにみる対等合併だ」と胸を張った。この発言に対して、対等とはいえないとの疑問が出た。米国の通信社は「米アプライドが東京エレクを9300億円で買収へ」と報じた。
両社はオランダに持ち株会社を設立し、傘下にアプライドと東京エレクがぶら下がる。持ち株会社の株式の過半数となる68%をアプライド側の株主が握り、東京エレクは32%を保有する。証券市場は、アプライドによる東京エレクの買収という判断を下した。
東氏は持ち株会社の会長に就くが、経営トップのCEO(最高経営責任者)はアプライドのCEO、ゲイリー・ディッカーソン氏だ。経営統合がアプライド主導であることは間違いない。
東京エレクの株式は、外国人株主が48.7%を保有する。彼らはアプライドによる買収は大歓迎だ。株価が上がって儲かるからだ。統合案が可決された6月20日の株価は、リーマン・ショック直前の高値7360円(08年6月2日)に迫る7129円に急騰した。
「対等」と言い張るワケ
それでも東氏は対等にこだわった。なぜか。日本側のメンツを保つためだ。
日本では対等という場合、社員の処遇を指していることが多い。だが、企業規模が2倍の企業との経営統合が対等なわけがない。統合後、東京エレクの社員が不利な立場になるのは確実だ。
この不安を払拭するためのレトリックが、対等発言なのである。取締役会を構成するメンバーを同数とし、株式交換比率も公平な値を算出した。日本側の理解を深めるために、ディッカーソン氏が家族と一緒に東京に移り住むという気の配りようだ。
「対等」という言葉にすり替えることで、米国企業に買収される実態をオブラートに包んだのだ。「対等」はあくまで国内向けの表現だ。外国人株主をはじめ株主は買収を大歓迎しているが、買収されたのだという冷厳たる現実を、東京エレクの社員はこれから突きつけられる可能性もある。
(文=編集部)