「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/6月21日号)は『本誌独占インタビュー 電子の帝王テリー・ゴウ 「シャープとのすべてを語ろう」』という記事を掲載している。
テリー・ゴウとは、EMS(電子機器受託製造サービス)最大手の台湾企業、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘董事長(社長)のことだ。
鴻海といえば、アップルやソニーなどハイテクメーカーが大口顧客、スマートフォンやテレビなど電子機器の生産を請け負っている。組み立て下請けという業態だけに目立ちにくいが、年商は約13兆円と日本のあらゆる電機メーカーを規模で上回っている。
その名が大きく知られたのは、経営危機に陥ったシャープに救いの手を差し伸べた時だった。2012年3月、鴻海はシャープと業務資本提携で合意。鴻海側は約1300億円を投じ、うち半額をシャープ本体に、残りを大阪府堺市の液晶ディスプレー工場に出資する計画だった。ところが、工場への出資は行われたものの、本体への出資は行われず、提携交渉はこじれにこじれ、最終的には韓国サムスン電子などが出資することとなった。
交渉の段階で、シャープの巨額損失隠しが明らかになり、当初の条件(本体への出資は1株550円で9.9%出資)では含み損を抱えてしまうと、「鴻海側が出資に二の足を踏んだため」と日本のマスコミでは報道された。「日本の技術を盗みたかっただけでは」などという憶測も飛び交っていた。
●ゴウ氏「だまされた」「不誠実なのはシャープ」
これまで日本メディアの取材の多くを避けてきたゴウ氏が今回、初めて、その顛末を語った。「シャープとのすべてについて、今日ははっきり説明いたしましょう。ずっと我慢してきましたが、心の内をすべて吐き出したくなりました」(同記事より)
「はっきり言いましょう、私はだまされました」と、ゴウ氏は交渉の内幕を打ち明ける。当初の提携交渉の相手は町田勝彦会長、片山幹雄社長(いずれも12年3月当時)だったが、実際の業務資本提携交渉が始まると3日目からは奥田隆司(12年4月より13年6月まで社長)が加わった。
「非常に急がされたので、私たちはデューデリジェンス(事前調査)をしませんでした。1週間しかありませんでしたから。ですから私たちは、後日にデューデリをするという条件を(合意書に)加えたのです。
ところが、調印後の4月になって巨額損失が明らかになり、シャープの株価は急落しました。たしか190円まで下がったはずです。当然私たちはすぐにデューデリを求めましたが、カウンターパートである町田さんはすでに引退していました。
町田さんに代わって、片山さんが会長になり、奥田さんが社長になりました。そして片山会長には大して権限がなく、奥田社長にこそ実権があるとわかるようになります。私と町田さんはそれまで1年にわたって提携を模索してきました。それなのに調印するやいなや、奥田さんが実権者であるという。アイ・アム・ショックト! 驚愕しましたよ」(同記事より)
そしてゴウ氏は破談に至ったシャープ側との一連のやりとりを次のように明かし、憤る。