「町田さんは市価、つまり100~200円をベースにした出資でいいと言ったのです。しかし、後になって奥田さんは『町田さんは退任したのでもう関係がない』と言い、(略)550円でなければ出資させないと言い張りました。私たちが550円で出資しないのであれば、100円台の株価でサムスン電子に出資させてもいいとまで言うのです」
「後になって、1株190円でサムスンと米クアルコムが出資しました。サムスンは最も安い時に出資したのです。それなのに私には最も高い価格が求められる。それって道理に合いますか?」
「本当は今日ここまで話すつもりはありませんでしたが、日本人が私を理解しておらず、不誠実な人間だと思っていると知り、たいへん心が痛みました。不誠実なのはシャープです。後になって、東京の人が『関西人との取引には注意しなければいけない』と教えてくれました」
「私は何もメリットを得ていないのですよ。もし鴻海が出資できていたら、シャープはサムスンから出資を受ける必要はなかったのです。最も利益を得たのはサムスンです」
●政府から日本企業支援の打診も
日本政府も鴻海の動きに関心を示していたという。経済小説のようなやりとりが日本政府との間で行われていたのだ。
「私が堺工場に出資するとなったときに、日本政府は私たちに対して非常に大きな関心を持ち、経済産業省の柳瀬(唯夫・元経済産業政策局審議官)さんを派遣してきました。鴻海に出資する資格があるかどうかを調べに来たのです。(略)鴻海は技術を盗みたいのではないか。そもそも技術力がある企業なのかどうか、といった意図だったようです。柳瀬さんは台湾の私たちの会社を訪れ研究開発状況を調べ、また、私にインタビューもしました。その後、私は柳瀬さんを自宅に招いて食事をし、こう尋ねたのです。『堺工場に投資をしてもいいですか、私たちの技術はシャープと対等に立てる水準にありますか』と。すると柳瀬さんはOKと答えました。それから私たちは友人関係となり、東京に来ると頻繁に会うようになりました。
ただ柳瀬さんはその後、安倍晋三首相の秘書官になり、会う機会がなくなりました。それで今度は柳瀬さんの後任というべき経産省のある人と行き来するようになりました。その人とはほんの2カ月前にも会ったのですが、機会があればやはりシャープを支援してほしいと言われました」(同記事より)
堺工場を傘下に収め、市価であればシャープ本体への出資意欲もあるというゴウ氏。柳瀬氏の後任の経産省の人物から日本の優れた中小企業100社のリストをもらい、そのうちの何社かのビジネスモデル展開を支援することになっているという。さらに、人間と会話ができるソフトバンクのヒト型ロボットの受託生産も決まっている。ゴウ氏は日本への出資に意欲的だ。
「インタビュー後記」で取材記者は、「ゴウ氏の目指す日本との提携は、鴻海という巨大企業に成長をもたらすと確信してのことで、損得勘定を加味した日本へのラブコール。もしかすると日本人や日本企業は、『そろばんずくの愛』を受け入れるのが苦手なのかもしれない」とまとめている。
(文=松井克明/CFP)