また、イオンは売上高こそ6兆3951億円(14年2月期、以下同)と流通業界トップだが、「食品スーパー事業」の売上高は1兆5539億円。これに対して、ライバルのセブン&アイ・ホールディングスの「食品売上高」は総合スーパー、イトーヨーカ堂とコンビニ、セブン-イレブンの合計だけで3兆1531億円。食品事業に関してはセブン&アイに倍以上の差をつけられている。これは売り上げ規模の大きい首都圏で、緻密な店舗網を持つイトーヨーカ堂とセブン-イレブンの食品販売力に差をつけられているからだ。
そこで、セブン&アイと食品売り上げの差を縮めるためには「首都圏攻勢」がイオンの最優先課題となる。そのためイオンは、13年春にJ.フロントリテイリング傘下の食品スーパー、ピーコックストア(現イオンマーケット)を買収。その後も首都圏に店舗が多いダイエーを子会社化した。首都圏で展開するミニスーパー、まいばすけっとも500店体制となった。だが、ダイエーの業績は低迷続きでいまだに経営再建の目途が立たず、まいばすけっとも、ミニスーパーゆえの品揃えの薄さが足枷となり、売り上げは頭打ちの状態。
一方、約270店と首都圏で食品スーパー最大規模の店舗網を持つマルエツも、苦戦が続いている。ここ5年で店舗数を約1割増やしたにもかかわらず、売上高は微減。営業利益率は1%未満と低迷している。競合が激化するコンビニなどへの有効な対抗策を打ち出せず、競合先に客足を奪われ続けているのが現状。単独での収益向上策には限界が見え始めている。
マルエツに比べ業績が比較的好調なカスミも、半数以上の店舗を構える本拠地・茨城県の人口減少に頭を抱えている。郊外を中心にディスカウントショップとの競合が厳しく、ここ数年は隣接の千葉県や埼玉県にも店舗網を広げているものの、中長期的な成長戦略は描きにくくなっているのが現状だ。
そこで、首都圏連合の創設により、首都圏の食品スーパー事業の規模のメリット追求と経営資源の共有化を図り、ついでにトップバリュの販売も拡大させるというのがイオンの狙いだ。換言すれば首都圏攻勢の手詰まり打開策ともいえる。
●首都圏連合がもたらすインパクト
首都圏連合について、証券アナリストは「2つの意味でインパクトがある」と、次のように分析している。
1つ目は、イオンが従来の資本参加型グループ会社方式から持ち株会社方式による業界再編に方向転換したことで、業界再編に対するイオンの主導力が強まったこと。2つ目は、イオンが売り上げ1兆円を今後の食品スーパー生き残り基準に設定したこと。そして「この2つのインパクトで、首都圏の業界再編は進むだろう。セブン&アイの戦略にも影響を及ぼす可能性がある」と評価している。
だが、事情に明るい流通業界関係者の間では、「こんな状況で、首都圏連合が食品スーパー業界再編の起爆剤になるのか」との見方が支配的だ。
これまでイオンは、買収した企業の独立性を尊重する「連邦経営」でグループの一体化を目指してきた。首都圏連合を共同持ち株会社のスキームにしたのも「各社の独立性を担保するため」(マルエツ関係者)といわれている。しかし「マルエツとカスミの社風は水と油。経営統合はできても、事業統合はできない」(業界関係者)との声がある。