是非はどうであれ、その取締役会に“ちゃんとした人”が入ってきて、組織内調整がすっかり済んだ方針について、「え? そんなの市場原理からすると、おかしい判断ですよ」と指摘されたところで、説明するのが面倒ですし、きちんと説明しようと思うと、自分たちがわかってはいるけどあからさまには認めたくない恥ずかしい部分を露呈させなければなりません。決して「問題の先送りになるけど、俺や部下たちが、今までの責任を取らなくて済むんだよ!」とは叫べないわけです。同席している担当外の取締役にしても、「確かにオカシイでしょう。やり直しましょう」と言ってしまうと、いつやり返されるかわかったものではないので、ヒヤヒヤしながら静観してしまいます。
そんな事態を招いてしまわないよう、そうした胆力や嗅覚を持っていなさそうな人、でも対外的な説明がつくよう、表面的な経歴等は見栄えが良い人が社外取締役として理想的と考える上場企業は、多くあるようです。
●社外取締役として人気のプロフィール
お飾り取締役として人気があるのが、まず官僚や銀行のOBです。彼らは文句なしで見栄えが良い一方で、ビジネスに深く入ってきません。これは知識や能力面で不足しているということではまったくありません。減点主義と上司絶対主義文化に順応して30-40年生きてきた人が多いので、条件反射として「自分の意見が間違っている可能性があることは、一言も発しない」「自分の人事権を持つ人間には一切逆らわない」といった癖がついています。仮に何か言っても、社長が「判断は私たちにお任せください」と一言言えば、以後ずっと黙ります。自分の意見が通らなくとも、本人たちも副収入と取締役という名前によって名誉欲が満たされる状態を維持するために、大人の対応をします。こうして双方の思惑が一致します。
次いで、弁護士、会計士など士業です。分をわきまえてカネを稼いできていますので、専門領域については的確なコメントをすれど、他のことには一切口出ししません。顧問で雇うのと同じ感覚です。もともと顧問でいた、勝手知ったる間柄である先生に座っていただくこともあります。
そして、大学教授。会社経営が完璧な理論に基づいた戦略を実行しているかのような印象を抱かれ、見栄えが良いです。ただ、当該ビジネスのことを深く知らなくても積極的に何か意見を出そうとするような煩わしさがあります。しかし会社から見れば“替え”はたくさんいます。気に入らなければ任期満了で退任してもらい、次を探します。学識者としてのハクつけのためにタダでもやりたいという人はたくさんいますのですぐに見つかります。
最近はそれに加えて、「女性か外国人なら最高に良い」ということもあるようです。政府からは女性登用のプレッシャーが出ていますが、古い会社ほど旧態依然とした男尊女卑のカルチャーが脈々と残っていますので、現場に中途採用で女性ミドルを採用したりすることを望んでいません。組織の下から女性を押し上げるなど、男性社員から起こる不協和音が面倒です。そもそも、だいたいにおいて日本の大企業で経営に携わる立場にいる年配の人は、働く女性が苦手です。しかし、国の意向に応えているように見えなければなりません。そこで、社外取締役として女性に座っていただけることが一石二鳥だと映るようです。外国人も同様です。しかし当然、そうした場面に推薦されるに至る女性や外国人は“ちゃんとした人”が多いので、なかなか決まりません。