苦境マック、乗り越えるべき2つの壁 強みのクーポンと調達システム、一転して弱みに
この一時的な成功に気をよくしたリンガーハットはクーポンを乱発。結果として、顧客には「ちゃんぽん=安物」のイメージが定着し、次第に消費者から飽きられて07年には多額の赤字を計上し、八木氏は引責辞任に追い込まれることになるのです。
恐らく、マクドナルドにとっても、クーポンによる売り上げアップ効果は徐々に低下しているはずですが、やめてしまうと顧客離れがさらに加速する懸念があるうえに、すでにIT投資として多額の資金を投入しているため、「回収せずにやめてしまうのは避けたい」という意識も少なからずあるのではないでしょうか。
ここに「サンクコスト」の壁があるのです。サンクコストとはすでに投下した費用であり、今後の事業計画にはなんら考慮する必要のない費用です。ですから、マクドナルドとしては、「これまでの多額の投資を取り戻すためにクーポンの使用はやめられない」と、すでに投下した費用に戦術を引きずられるのではなく、「今後業績を回復させるには何をするべきか?」を考え、もしクーポンが必要なければこれまでに投下した費用はサンクコストとあきらめて、現在取りうる最善の一手を打っていかなければならないのです。覆水は盆に返ることはありません。このことを肝に銘じて、「サンクコスト」の壁を乗り越えていく必要があるでしょう。
(2)「グローバルサプライチェーン」の壁
マクドナルドはコストリーダーシップを発揮するために、その時点で世界中の最も安く仕入れることができる企業から原材料を調達する「グローバル・パーチェシング・システム(GPS)」を導入しています。
GPSによって、原材料を提供する企業の情報、例えば規模や所在地域の関税・貿易規制、為替相場、食材の現地価格、調達コストなどをリアルタイムで把握することが可能になり、1円でも安い企業からの仕入れを可能としているのです。
これは、グローバルで大規模にビジネスを展開するマクドナルドにとって、他社では実現できない強みといえますが、今回の中国での使用期限切れ鶏肉原料の問題が発覚すると、一転して弱みとなり、業績に深刻な影を落とすようになったのです。
つまり、マクドナルドにとって1円でも安い企業から原料を調達することは、システム上当然のことであり、サプライチェーンの1社として組み込まれていれば、なんの躊躇もなく、その企業を選択したとしても不思議なことではないでしょう。ただ、やはり「安いものには理由がある」と疑い、抜き打ちで品質をチェックするなど万全を期すことは、いかにコストが上乗せされるといえども、怠ってはいけないことなのです。
特に最近ではどこの国でも、消費者が食に対する安心・安全を重視する傾向にあり、このコストを渋ることになれば、今回のマクドナルドがそうであったように、後に大きなしっぺ返しを食らうことも十分に考えられるのです。