一方、代ゼミの場合は、「調子がおかしい。病院に行こう」と考え、「ちょっと炎症が起きていますね。1週間ほど入院しましょう。でも、リハビリすれば、すぐ元気になりますよ」と言われているようなものだ。
大切なことは、既存事業にずるずるとこだわり続けないことだ。既存事業が踊り場を迎え、成長の可能性が少なくなったのであれば、次の成長の手立てを考えることが重要なのである。多くの事業の寿命は数年から数十年に過ぎない。
富士フイルム(旧富士写真フイルム)は1934年の創業以来「写真文化」の普及、発展に向けた取り組みを行ってきた、写真フィルムが主要事業の会社だった。しかし、2000年には出荷額で個人向けデジタルカメラがフィルムカメラを抜く事態となった。このような状況で富士写真フイルムは、06年10年に社名から「写真」という文字を外し、写真領域以外にも積極的に事業を拡大し始めた。
●すでに打たれた事業シフトへの布石
代ゼミが同じように「ゼミナール」を外し、代々木「不動産」や代々木「ビル」になっても別に不思議ではない。代ゼミが予備校事業から異なる事業へシフトしただけの話である。大切なことは、同じ環境に居続けたいという願望だけで「茹でガエル」にならないことだ。常に環境変化を敏感に察知し、対応を先んじてとることである。
すでに、京都校の別館は10年10月に「ホテル カンラ京都」(京都市・下京区)としてオープンしているし、京都駅近くの学生寮だった建物は11年4月に「ホテルアンテルーム京都」に改装された。代ゼミ本部校跡地の遊休地の活用を目的とした、5~10年の期間限定のプロジェクトとして、11年8月にはサザンオールスターズやMr.Childrenなどの音楽プロデューサーである小林武史さんを迎え、商業施設「代々木ヴィレッジ」をオープンした。すでに代ゼミの事業シフトの布石は打たれているわけで、今回の校舎閉鎖は、それほど驚く話ではないのである。
もちろん、受験生を抱える親御さんからしてみれば、やはり心穏やかではないだろう。勉強に集中したい時期にいろいろノイズが入ることは、受験生にとってはやはり気の毒である。ただし今後、大学や高校、資格試験にせよ、予備校業界の合従連衡と閉鎖問題は頻繁に起きると考えておいたほうがよい。だから、どこか1つの予備校や塾に頼るのではなく、常にオプションを用意し、今子どもを通わせている予備校や塾がサービスを停止した場合、そちらに移るという心づもりは必要となるだろう。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院<社会科学系> 准教授)