つまり、同社がネット時代に「利便性の強み」を発揮するためには上記3点セットが前提になるというわけだ。
●加速するグローバル展開
実際、峰岸社長が社長就任直後に打ち出したのがグローバル展開の加速だった。12年以降から海外の人材ビジネス関連会社の買収を加速、14年8月末現在、世界16カ国約900拠点で事業展開するまでになっている。リーマンショック後の10年3月期から12年3月期までの3期間、8000億円前後で低迷していた営業収益が、13年3月期にいきなり1兆円台を取り戻したのは買収の効果だ。12年3月期に300億円だった海外営業収益が13年3月期に2100億円と7倍増している事実が、これを示している。14年3月期の海外売上高比率はまだ23.5%の2800億円にとどまっているが、同社はすでに「18年をメドに海外営業収益比率50%」の計画達成を発表している。
そのためにも、株式上場による資金調達が不可欠というわけだ。リクルート関係者は「さらに財務の多様性とグローバルな信頼性を担保する上でも、上場は不可欠。当社は国内でこそ有名だが、海外では無名の会社。米国では社名の連想から『軍隊の新兵募集プロモーション会社か』と聞かれることがしばしば」と苦笑する。
このほかにも、ネット時代の到来で低下した競争力を取り戻すため、峰岸社長は分社化も進めた。12年10月1日付で持ち株会社制に移行、現社名に変更すると同時に主要事業部門を分社化し、7事業会社と3機能会社に組織を再編した。事業部門レベルでの意思決定の迅速化が目的だった。かくして「3点セット」は整った。あとは紙媒体時代の「モーレツ営業会社」からIT技術を駆使するネット企業へいかに転換できるかに、同社の成長がかかっている。
●ネット企業への脱皮
リクルートのビジネスモデルの根幹は「消費者と企業の出会いの場の提供」にある。その場はかつて情報誌だったが、今では大半が求人情報検索サイト「リクナビ」や不動産情報検索サイト「SUUMO」に代表されるネットサービスに移行した。
だが、ネットへの転換が順調に進んだ割には、ネット企業としての存在感は薄い。「リクルートといえば情報誌」という企業イメージが定着している上、個別のサイトがそれぞれ独立して散在しているからだ。最近になってようやくサイトごとに異なる会員IDを統合したが、その程度では存在感の向上につながらない。
そこでリクルートは求人情報検索サイト運営の米インディード社を買収し、12年10月に子会社化した。インディード社は04年に「アグリゲート型求人検索エンジン」を開発したネット企業として知られており、同エンジンは求人サイト内の求人情報は無論のこと、企業ウェブサイト内の採用情報も1回の検索キーワード入力ですべて閲覧できるのが特徴。世界50カ国以上、26言語に対応し、求人検索数は月間15億件に及んでいる(12年9月末現在、自社調べ)。リクルートはインディード社の検索エンジン技術を導入した新しいマッチングサービスの開発を今年2月から開始している。現在のサイトで提供しているマッチングサービスは、基本的に紙媒体時代の技術をネットに移植した程度のものでしかない。「これではもうSNSと互角に戦えない」(同社関係者)からだ。