2700億円の巨額損失計上を発表した29日の記者会見で、住商の中村邦晴社長はその理由を率直に述べている。
「当社の資源・エネルギー事業のポートフォリオは非鉄金属に偏っており、かねてから石油・ガスの開発事業強化は課題の1つだった。しかし同事業で後発の当社は、有望開発案件に参画しようとしても石油メジャーが相手にしてくれない。このため石油メジャーや他社がまだ本格参入していないシェールオイル開発事業に、当社の石油・ガス事業強化の夢を託した」
つまり、シェールガス革命を誤信した住商は、他社が試験的に事業リスクを勘案しながら投資しているのをみて、チャンスとばかりに勝負に出て失敗したのだ。伊藤忠関係者は「住商がシェールオイルにのめり込んだ内部事情は、カナダの石油精製事業にのめり込んで経営破綻した、かつての安宅産業を想起させる」と顔を曇らせる。
●住商が抱える、もうひとつの爆弾
それだけではない。住商は、他社より弱体な資源・エネルギー事業で、もう1つ爆弾を抱えている。東アフリカのマダガスカルでカナダと韓国企業との合弁で進めているニッケル開発事業の「アンバトビー・プロジェクト」だ。
07年8月の発表では、住商は同プロジェクトに14億ドルを出資、10年後半から商用生産を開始する予定だった。しかし現地政権の交代、精錬の難しさなどから商用生産開始は延期が続き、今年1月からやっと生産開始にこぎ着けた。この間に開発投資は総額で約3000億円(14年3月末)まで膨らんでいる。
同社は15年6月にプロジェクト稼働率が90%に達する予定としているが、業界関係者の一人は「生産開始から半年以上たった今年夏の生産量が、計画の40%程度の様子。来年6月の90%は到底無理な数字。今後の進捗次第では、こちらも巨額損失発生の可能性がある」と危惧している。
商社業界では近年まで最終利益ランキングで「住商3位、伊藤忠4位」がほぼ定着していたが、12年3月期の業績で、この地位が逆転した。このままでは「住商5位陥落」の恐れもある。住商は、事業精神である「堅実経営」の意味を改めて問い直す必要に迫られているといえよう。
(文=福井晋/フリーライター)