今期の赤字縮小の根拠は、家庭や企業向けの電気料金の値上げで4850億円の増収を見込んでいること。家庭向けは7月からの値上げ実施で1900億円の増収になると試算している。しかし、経済産業相が電気料金の値上げを認可していないにもかかわらず、値上げを前提に業績予想の数字を弾き出しているのだ。
「これだけ不確定要素が多いのだから、まとも経営者なら、今期予想は未定とするはず。認可されていない電気料金の値上げを組み込んで、業績予想を発表するのはアンフェアだ。だが、未定にできない深い事情があるのです」(外資系証券会社のアナリスト)
決算発表に先立つ5月10日、東電の「総合特別事業計画(総合計画)」が認められ、再建に向けて第一歩を踏み出した。同計画では、国が東電に対して1兆円に上る公的資金を注入。当初2分の1超の議決権を取得して、実質国有化する。これで経営破綻という最悪のシナリオは回避された。
総合計画は、金融機関が追加融資1兆円を含めて全面的に金融支援を行うことが前提になっている。融資を実行するためには、電気料金の値上げや柏崎刈羽原子力発電所の再稼動など高いハードルを越えなければならない。
東電の実質国有化という方向性は出たが、電気料金の値上げや原発再稼動はまだ決まっていない。それなのに、決まったものとして業績予想を立てるのは、おかしくはないだろうか?
「今期の東電の業績予想は、『総合計画を実行した場合には、こういう数字になります』というシミュレーションでしかない。しかも、最もうまくいった場合の数字だ。電気料金の値上げを既に決まったものとしているが、これでは投資家に誤った情報を与えることになる」(前出のアナリスト)
とはいえ、東電の業績見通しが「未定」では、総合計画の実現に疑問をもたれかねない。それでは金融支援を約束している銀行団は困る。株主代表訴訟の火の粉をかぶることになるからだ。経済産業省や原子力損害賠償支援機構も、これと立場は同じだ。支援機構の運営委員長が、次の東電の会長に決まっている。