オリックスの弥生買収、マーケ4P的巧妙戦略 中小企業の半数を顧客基盤として獲得
総合金融サービス大手オリックス(東京・港)は11月13日、会計ソフト開発・販売の弥生(東京・千代田)を総額800億円強で買収すると発表した。
弥生は1980年代から、中小企業にとって単独で会計・業務用ソフトを開発することが高負担だった状況を踏まえ、業務用パッケージソフトを納入してその運用を指導・支援する「会員会社」を開拓してきた。顧客基盤である会員数は120万社を超えるとみられる。日本における小規模事業者(従業員30名以下)の総数は334万社ほどであり、そのうちで実質休業状態の企業もあるため、日本の中小企業全体の半分近くを顧客にしているといえる。さらに、業務用ソフトはサポートサービスやアップグレードなども発生するため、一度売ってしまえば終わりという「売り切り」でないため、顧客企業と強い関係を構築することができる。
そんな弥生を買収するオリックスは、融資、保険、リースなどの商品を保有しており、取引相手が法人の場合、福利厚生から年金設計、運用まで引き受けることができる。また、それらの金融商品を売り込む組織も人員も豊富に抱えている。
●4P戦略的に高い効果を期待
マーケティングで重要だといわれる「4P戦略」とは、プロダクト、プレイス、プロモーション、プライスの4つだが、オリックスはもともとプロダクトを保有していたところへ、弥生の買収によりプレイス、つまり流通経路(販売先)が一気に広まったことになる。
加えて、プロモーションという点でも、プロ野球球団のオリックス・バファローズを保有しており、弥生の会員企業へのサービス、もしくは新規顧客企業獲得のためのツールとして、バファローズの試合の入場券を利用できるかもしれない。もちろん球団としては入場者増となる。
残りのプライスの点では、弥生を通して日本の中小企業の半分をカバーできるため、さまざまな面でスケールメリットを生かした価格政策を実施できる。
以上のオリックスのビジネス展開は、弥生の会員顧客チャネルを通じて行われるため、弥生にとっても新たなビジネスチャンスとなる。つまり、今回の買収は両社にとってまさに「Win-Win」のディールとなり、戦略的には極めて妙手である。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)