当時副社長兼CFOで現副会長の加藤優氏は、「そういう意味で、1勝1敗1引き分けということですね」と語った。そこには、CFOとしての当事者意識のカケラも感じられなかった。ビジネスはゲームではなく生死を懸けた戦争であり、かりにも一敗すれば死を意味するくらいの覚悟で経営にあたる必要があるのではないだろうか。確かに、ファーストリテイリング社長の柳井正氏に『一勝九敗』(新潮社)というタイトルの著作があるが、それはあくまでチャレンジの話で、そのタイトルはいやしくも決算にかかわる話ではない。
パナソニック社長の津賀一宏氏は、大赤字を出し無配に陥ったとき、「パナソニックは“普通の会社”ではないことを自覚するところからスタートしなければならない」といい切り、社員の危機意識を徹底的にゆさぶった。この発言を聞いたとき、「そこまでいうか……」と驚くと同時に、津賀氏の経営者としての覚悟を見た思いがした。サムスン会長の李健熙氏にも、経営者としての覚悟がある。93年に「新経営」を宣言した際、「妻と子供以外はすべて変えろ」の強烈なスローガンを発信し、意識改革を促したのは有名な話だ。
その点、「従来のビジネスを続けていると、会社がつぶれるかもしれない」という言葉を、残念ながらソニーの経営陣から聞いたことがないのだ。厳しくいえば、副会長の加藤氏に象徴されるように、当事者意識の気迫が感じられないのである。背水の陣を敷き、あらゆる手段を使って赤字を解消し、生き延びようという覚悟が感じられないのだ。いま一度、下方修正を繰り返すようなことがあれば、それこそトップは厳しい局面に立たされるだろう。
この数年間、ソニーは奇跡の復活を起こすチャンスを何度となく逃してきた。もしかすると、すでに正念場を越えてしまっているのかもしれない。もっというならば、“次”がないところまで追い込まれているかもしれない。その自覚があるのかどうか、今こそ問われている。
(文=片山修/経済ジャーナリスト・経営評論家)