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“誰にも信じられなくなった”ソニー、失望拡大深刻化 再建策提示を避け続けた代償

文=田沢良彦/経済ジャーナリスト
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“誰にも信じられなくなった”ソニー、失望拡大深刻化 再建策提示を避け続けた代償の画像1ソニー「Xperia M2」
 ソニーは11月25日、経営再建のカギを握るエレクトロニクス事業に関する大規模な投資家向け説明会を開催した。ゲーム機分野、サウンド分野など各分野のトップが2017年度の経営数値目標を示したが、スマートフォン(スマホ)をはじめとする肝心のモバイル事業分野だけは「14年度中に発表する予定」として経営数値目標を示さなかった。その途端、会場の随所から「またもエレキ事業再建先送りか」と失望のため息が漏れた。

 今年1月7日、同社の平井一夫社長兼CEO(最高経営責任者)は米ラスベガスにいた。同日開幕した世界最大の家電見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で基調講演するためだった。講演後、邦人記者団に囲まれた平井氏は上機嫌だったという。その取材中、モバイル事業の中核であるスマホ事業について、13年度のスマホ販売台数は2年前の約2倍の4200万台になる見通しと話し、今年からは米国と中国に本格的に進出し、2年後の15年度には13年度の倍の8000万台以上の販売を目指すと述べた。さらに「当面は台数ベースでサムスン、アップルに次ぐ世界シェア3位を目指す」との目標も明らかにした。そして「スマホ販売拡大をエンジンにエレキ事業を黒字化し、経営再建の突破口を開く」と語った。

「希望的観測すぎる」決算見通し

 だが、この見通しは早くも崩れる結果となった。5月1日発表の14年3月期連結業績予想は、最終損益が1300億円の赤字となり、パソコン事業撤退を発表した今年2月時点の予想から赤字額が200億円膨らんでいた。次いで5月14日に発表した14年3月期連結決算で確定した最終損益は1284億円の赤字だった。また、同日発表の15年3月期の連結業績予想は、最終損益が500億円の赤字見通しとなり、エレキ事業の再建が依然として停滞している状況をうかがわせた。

 再建停滞の主因は「エレキ事業の構造的なコスト負担の重さ」(ソニー公式発表より)。エレキ事業主力のテレビやパソコンの市場収縮が進む中、迅速な対応を怠り、収益改善ができなかったツケが最終赤字を呼び寄せた。リーマンショック後の09年3月期から14年度前期までの最終赤字額は累計約9400億円に達していた。

 同日記者会見した吉田憲一郎CFO(最高財務責任者)は「累計赤字一掃の道筋をつけるためにも、今期は構造改革をやりきる」と明言。発表済みのパソコン事業撤退のほか、エレキ事業の販社コスト20%削減と本社コスト30%削減方針を示した。これらのリストラについて吉田氏は次のように自信を示した。

「エレキ事業の収益は1250億円の黒字(前期は184億円の赤字)に転換する。内容的にはテレビ事業が前期の257億円の営業赤字から黒字に転換、スマホ事業の伸びでゲーム機事業は200億円の黒字に転換する。この結果、連結営業利益は前期比5.3倍の約1400億円に拡大する」

 だが市場関係者からは「ソニーのエレキ事業はテレビ、パソコン、スマホ、ゲーム機、デジカメと、価格競争が激しい一般消費者向けが大半。過去に何度も業績予想が下振れする主因だった。今回のエレキ事業黒字化も、希望的観測すぎる」との声が上がった。そして、それが間もなく現実化した。

4期連続の赤字

 9月17日、ソニーは15年3月期の連結業績予想の下方修正を発表。最終損益は2300億円の赤字になる見通しを明らかにした。赤字幅が当初予想の500億円から2300億円に一気に拡大した主因は、平井氏がエレキ事業黒字化のエンジンに据えていたスマホ事業の不振。同事業が中国メーカー勢との価格競争で苦戦。同事業が約1800億円の営業赤字になった。

 スマホ市場は4-6月の世界出荷台数が前年同期比約20%増になるなど拡大が続いている。この成長市場でソニー製スマホ「Xperia」も人気を集めているが、サムスンやアップルの製品ほどの競争力はない。この現実の前にソニーは今年7月末、今期の販売台数計画を期初の5000万台から4300万台へと700万台引き下げた。この下方修正で、12年に旧ソニー・エリクソンを完全子会社化した際の利益額達成が困難となり、今年7-9月に実施した減損テストの結果、約1800億円の営業権減損処理を迫られた。この減損分が期初予想の500億円にそっくり上乗りするかたちで2300億円の巨額赤字見通しとなった。10月31日発表の15年3月期中間連結決算で確定した中間最終損益は1092億円の赤字で、中間決算としては4期連続の赤字だった。

「ポストスマホ」発言広がる失望

 そして迎えた冒頭の11月の投資家向け説明会。今や社内で「エレキ事業再建の最大障壁」といわれ、一部では早くも「これも来期は売却」と囁かれているモバイル部門を率いる十時裕樹ソニーモバイルコミュニケーションズ社長は、「20-30%の売り上げ減少があっても、利益だけは確保できる事業に変える」と強調、投資家の不安鎮静化に努めた。

 しかし、出席者の大半が知りたかったのは「そうした抽象的な話ではなく、1800億円もの営業損失を出したスマホ事業を、ソニーはいかにして立て直すのかという具体策だった」(証券アナリスト)。だが同社は17年度の経営数値目標は示せず、十時氏の口から出てきた言葉は販売戦略の見直し、営業拠点の再編、商品ラインナップの絞り込みなど、従来から平井氏が公言してきた再建策の繰り返し。会場から失望のため息が漏れるのは当然だったといえる。

 これに追い打ちをかけるように出席者たちの不安を煽ったのが、十時氏の「モバイル事業の環境変化に備え、次の事業を育てる」との発言だった。緊急課題のスマホ事業再建策を具体的に示せない中で、スマホに代わる次世代モバイル端末開発を進める意向を示したのだ。株主として出席していたソニーOBの一人は「事業責任者の十時社長まで“ポストスマホ”を唱える平井氏と同じことを言うのかと、呆れ果てた」と語る。

 機関投資家は「ソニーが説明会で開示した資料からわかるのは、ソニー製スマホが強い地域と弱い地域が明確に分かれていること。そしてスマホ事業の急所は欧州だ」と言い、次のように説明する。

 13年度の実績は台数ベースで国内は17.5%、欧州は8.8%のシェアを獲得したが、米国は0.7%、中国は0.9%だった。つまり国内と欧州ではそこそこ強いが、最大市場の米国と伸び盛りの中国では、ほとんど存在感がない。そんな存在感のない市場で平井氏は勝負しようとした。惨敗して営業損失を出すのは当然。そして、中国市場で勢いをつけた中国メーカー勢が次に向かう先は欧州市場。対してソニーは旧エリクソンのリストラに手を焼き、高コスト体質のまま。そんなところへ中国勢に攻め込まれたら、欧州のシェアは一気に激減する。

「十時氏はいつ顕在化してもおかしくない欧州リスク対策をなおざりにしたまま、ポストスマホを進めようとしているようだ。社内の噂通り、スマホ事業の売却も検討しているのではないかと勘繰りたくもなる」(同)

 エレキ事業の抜本的改革策を示すと鳴り物入りで開催した説明会で、経営計画の甘さを露呈してしまった。暗いトンネルの出口は遠い。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

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