中国から入ってくるものはユニクロの製品や格安ジーンズ、100円ショップの商品など主に安物だ。一方、日本から中国に輸出するのは高品質の鉄鋼や重機、産業用ロボットなどの資本財(これら製品の現地生産も進んでいる)。精密な電子部品やファナックの産業ロボットやコンピューターの頭脳を持つ工作機械だ。三菱電機のFA(ファクトリーオートメーション)も、中国が欲しがるもののベスト3に入る。
ファナック製品は自動車のボディの溶接や塗装に使う多関節ロボットに加えて、スマートフォン(高性能携帯電話)などの組み立てに使うゲンコツロボット「M-1iA」だ。ゲンコツロボットと名付けたこの小さなロボは、人間の手に完全に置き換わるという優れものだ。小さな部品を瞬時に正確につかみ、次々と半導体の基盤に取り付けていく。精密機器を高精度&高速で組み立てるのに絶対に必要なロボだ。
ゲンコツロボットの開発エピソードを紹介しよう。ファナック名誉会長の稲葉清右衛門(87)が、中国の工場を視察した時のことだ。
「電機製品の組み立て工場で女子工員がずらりと並んで作業しているのを見て、この作業を何とかロボット化できないかと考えた」
この発言は、社長の稲葉善治の証言である。ゲンコツロボットは2009年4月に販売を開始した。ゲンコツロボットが中国に入らなければ、中国でスマートフォンは作れなくなるといわれている。
産業ロボットのレベルを比較する。中国は溶接ロボットの段階。日本はゲンコツロボットが主流になりつつあり、技術レベルで少なくとも3~5年の差がある。秒進分歩(日進月歩ではない)のハイスピードで技術革新が進んでいるわけで、決定的な差だ。
日本からハイテク資本財が入ってこなくなれば、中国の貿易構造の質の転換(繊維製品に代表される数量から、ハイテク製品の質への転換)ができなくなる。対中貿易の質(内容)を考えたら、中国が声高に叫ぶ「日本製品ボイコット」のツケは、完全に中国側に回ることになる。ダメージの質が違うのだ。
視点2:チャイナ・プラス・1(one)からチャイナ・アンド・アナザー(ASEAN 諸国)へ。
日本企業は、新たな投資をする際に中国以外を探すチャイナ・プラス・1を本格化させる。そして中国市場での売り上げ比率を下げる。10%以下にできればベストだ。賃金の上昇に加え、異質の国・中国におけるチャイナ・リスクが強く、再認識されている。今回も反日デモが、日本の現地企業の従業員の間で賃上げデモ&ストライキに変質した。コストの基本となる電気料金の突然の値上げを通告される。従わないと電気を止める。水も同様だ。インフラに関しても政治優先で、経済原則が生きない。契約そのものが守られないなど、様々なチャイナ・リスクが顕在化している。
今回の反日騒乱(暴動)を機に、「チャイナ+1」から「チャイナ・アンド・アナザー(ASEAN)」へと戦略を深化させることになろう。